感謝と感動のリヨン

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感謝と感動のリヨン滞在でした。
 
サンテグジュペリ空港に到着するや、出口にバール・フィリップスさんが迎えに来ています。ずっとそのリアリティを持てなかったのですが、実際は実際です。現実なのです。そこに微笑んで待っているのです。
 
彼にとっても病を克服して以後、1人での初めての移動(本人は、test drive 試運転と言っていました。)でした。同時刻に到着した便でサッカー選手が居たらしく大変な出迎えを受けてしまいました。バールさんは、いままでよりは少し低い声でしたが、大いにしゃべり、普通に食べることもできます。すばらしい。強い人です。
 
リヨン郊外に工房を持つジャン・オーレーさんも集合し、彼の工房兼住居へ移動。広い庭をもつすばらしい環境です。ここで工房を開き、チャーリー・ヘイデン、バール・フィリップス、ルノー・ガルシア・フォン、ブルーノ・シュビオン、ダイアナ・ガーレット、スタンリー・クラーク、アリルド・アンデルセン、バリー・ガイ、ジョエル・レアンドルさんなどなど馴染みのベーシストにベースを提供している現代の名工です。奏者に合わせて作るのがポリシー。いままで奏者を想定しないで作ったのは2台のみ(1台はNYのベースショップ、デヴィッド・ゲージ)。毎週末に山へ籠もるというホンモノの木のアーティストです。
 
私は、彼の考案したフライ・オーレを注文し、それを受け取る旅でもありました。フライト用に徹底的に考えぬかれています。ハードケースを含めて20㎏以内。ネックを外すようにして、オーバーサイズもクリア。すなわちあらゆる航空会社が受け取ってくれるベースを考案しているわけです。航空機を使う全てのベーシストにとって福音です。私のモデルがナンバー28。2ヶ月前に受け取ったジョエル・レアンドルさんがナンバー27。ジョエルは本当に気に入っていてずっと使用しています。
 
ベーシストは、移動が仕事の半分を言われています。そしてそれは本当なのです。ヨーロッパ内でもハードケースに入れて空港まで行き、チェックイン段階で拒否されることさえあります。911以降その傾向が進んでしまっています。
 
全てをクリアするフライ・オーレが考え出されたのです。始まりはバリー・ガイさんがフライト用5弦ベースを注文、バール・フィリップスさんが4弦を注文、というように需要に応えながら進んできたプロジェクトです。バールさんがナンバー0で始まりました。
 
リファレンスの弦がスピロコアなのでスピロコアが1番鳴るように調整されていますが、私はガット弦なので、ニューヨークのダミアンさんにガット弦を作ってもらいあらかじめリヨンにおくってもらう手続きをしていました。ダミアンさんもこだわりの職人で、どんな楽器に張るのか、弦長は何センチか、どんな太さが適切か、など詳細に話しあってから弦を作り、しかも歳を取った身体にはキツイ作業なので、かなり時間がかかり、直前に届いたそうです。最後にはちゃんと間に合わすアーティスティックな製作者達です。
 
到着したのが夜だったので、ともかく楽器を見る、などということはせず!に季節の料理(パンプキンスープ)庭にいる雌鳥からとれた卵のオムレツ、日本からのお土産の吟醸酒でゆったりと過ごします。日本の知人達から託されたバールさんへのプレゼントを皆でヤーヤー言いながら披露、楽しい時間でした。
 
翌朝、ゆっくり朝食をとり、いよいよご対面。彼が自信を持って「特別な木」を使って丁寧に作られた28番フライオーレです。あらゆる技巧と工夫に満ちています。普段、こんなお金の持ち合わせは無いのですが、昨年亡くなった母のプレゼントとして購入することができました。母の名前から「雅」と名付けましょう。
 
スタンリー・クラークが最近ここで購入したベースはヘッドの部分にスタンリーの母上の若い頃の顔が彫刻されていました。(クラシックコントラバスを十分に勉強しなさい、と言ってくれたそうです。)アリルド・アンデルセンが購入したベースヘッドはライオンでした。
 
分解の仕方、セットアップの仕方を習い、細かな調整をしてくれます。本当に丁寧です。素晴らしい。そして早い。
 
記念に演奏している映像を撮らせて欲しいというので、バールさんと初めて会った1988年に録音し(CD「彩天・Coloring Heaven ) バールさんがタイトルを付けてくれた「invitation」をいろいろな思いを込めてソロで演奏。途中でバールさんが加わってくれたのには驚きと感謝。
 
バールさんにとっても、病後、初めての演奏なのです。バールさんに会って27年、いろいろと御世話になりました。ヨーロッパへ初めて招待してくれたのも、いろいろなミュージシャン、フェスティバル、コンヴェンションを紹介してくれたのも、楽器を交換(二頭のライオン物語)してくれたのも、彼でした。私と同じように世話になった日本人も数多く居るでしょう。その意味も込めて3年前の来日公演は「ありがとうバールさん」という副題を付けたのです。私にしても昨年大病を克服したのです。実際に会っているという奇跡、その楽器を作った人の前で共演するという奇跡。凄い演奏とか、カッコイイ、上手な演奏とは全く違う次元の心を揺さぶる演奏でした。
 
ジョン・オーレーも蠍座、アリルド・アンデルセンはバールと私と同じ誕生日と判明。ベース関係の多い蠍座です。
 
最寄りの駅にバールさんを見送り、空港へ直行、寒い寒いブッパタールに戻りました。

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