ポーランドからポーランドへ

前からあまり出歩くのが好きではなかったが、耳を痛めてからは、なおさら。特にコンサートは怖い。大きな音だったり、電気仕掛け、過度なPAは、左右のバランスが取れなくなるし、症状を否応なく自覚せねばならない、そして何より悪化することを危惧してしまう。発症したのが音の大きなライブだったので、それがトラウマになっているかもしれない。

しかしこの一週間は、本当によく出歩いた。planBでの田中泯ソロ、OLEでの峰万里恵・高場将美デュオ、上野文化会館でのプレイヤード結成30周年記念コンサート、上智での授業、アゴラでの岩下徹ソロ「放下」・・・我ながらよく行ったものだ。全部アコースティックだったし、なにより共演者だし、楽しみだった。

泯さんは極少ない動きの1時間。小さな動きの中の、さらに微妙な変化、その中のひらめきを注視する。この日に届いた座高円寺「オンバク・ヒタム」のDVDを渡すことができた。

フラメンコバール、オレでのデュオ(ここは安くておいしいナイスなバーですぜ、高田馬場駅より徒歩7分)。ファドを中心としたしっとりした会。今夜、万里恵さんは有る音域をつかんだようで、のびやかだった。アマリア・ロドリゲスさんの最大の作曲提供者アライン・オウルマンの曲が多い。歌手と作曲家の本当に幸福な出会いを思う。またポルトガルの「社会派」シンガー・ソングライター ゼカ・アフォンソさんの曲での解説は初耳だった。彼の歌のラジオ放送を合図に74年の無血クーデターが行われたそうだ。歌が、自分の国が、大事にされているな~。

プレイヤード五重奏団は現代音楽専門で30周年を迎えた。よく続いている。小松亮太タンギスツで時々弾いていたコントラバスの山崎実さん(群馬交響楽団首席)が、1年のドイツ留学を終えて最近帰国。そんなこともあり、久々のゲンダイオンガクを聴きに行った。(やっぱりこの種のゲンダイオンガクは私には遠かったな。)2曲目であろう事か弓が折れてしまった。かつて何回か一緒にベーストリオをやった井野信義さんも来ていて、人ごとではなく心配した。動揺はいかばかり。しかし気がついた聴衆も少なく、予備の弓で乗り切った。エライ。久々の井野さんと私の家族で新大久保「スンデ屋」。マッコビー(マッコリにビールを混ぜて飲む。小倉のタンゴバイオリン・牧師の谷本仰さんに教えてもらった。)と辛い食べ物で大満足。

岩下さんの「放下」は即興・1時間・無音という3条件。ほぼ年に一回で、もう22回目という。即興という方法で、「すこしずつ自由になる」という彼のテーマが一番シンプルな形で実現できる。私が観るのは3回目。時間が流れたり止まったり消えたりする。聴衆各自が自身を投影しながらゆっくり観ることができる。

家では、20年ぶりの大掃除が進行中で、イヤになったり、停まったり、進んだり。カネフスキー中毒は続いていて、特に、パーヴェル・ナザーロフとディナーラ・ドルカーロフが今どうしているのだろう、などと親戚のように心配してしまう。ディラーナさんが出演しているグルジア映画「やさしい嘘」を観て、「ああ、ちゃんとやっている」と安心したり、「パーヴェル君は映画に出ていないようだ」と心配したり。「動くな、死ね、甦れ!」のVHSをヤフオクにまで手を出して落札してしまった。あらら。

そんな中、アンジェイ・ワイダ「灰とダイヤモンド」を観て主役マチェックにパーヴェル君の10年後を重ねてしまった。これで瀬尾高志と観たワイダ監督のカントール「死の教室」から始まった一連の流れが最初に戻った気がした。

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