オンバク・ヒタム(6)

ドンドン島へ行く船中、日焼け止めを塗り忘れたほんの一時間で私の脚は火傷を負ってしまった。ここは赤道間近。冒険気分で調子に乗ってはいけない。私は悟る。私の遠い祖先は、椰子の実にのってオンバク・ヒタムで南から来た民族の一員ではなかったのだろうと。決して日焼けして黒くならない私の肌から言っても、モンゴルやロシアから回って日本列島にたどり着いた仲間だろう。その私が、この海流に興味を持っているのは不思議と言えば不思議。

人の流れは長い時間をかけてゆっくり行われるが、ほかの生き物たちは毎年のように大海を悠然と移動する。ウナギが産卵するのがマリアナ諸島付近の深海であることが最近分かったそうだ。ここで産卵したウナギの稚魚が日本まで来る。ヒトに食われなかったウナギはまたマリアナ海峡まで帰る。八重山あたりで産卵するウミガメはメキシコまで行く。鮭はアリューシャン列島海域・アラスカまで回遊して生まれた川へ帰る。

動物たちは潮の流れに従い旅を繰り返す。ヒトの多くは定住すべく努力し、所有欲に駆られ、争い、領地を拡大する。

私たちが運良く上陸した翌日から島で結婚式があり、華やいでいて、私たちのような(井野信義さんも同行)不審者も「物好きな中国人」と思われて大目に見てもらっていたが、ひょんなことから日本人と言うことが発覚した。ボスに呼ばれる。海を指さし「あそこに、ここにも、友達が死んで浮かんだ」という話になる。太平洋戦争の時、よっぽどの地図でなければ載っていないこの島にも日本軍は来ていた。それ以上の話はしないボス。菊の紋章のパスポートが重たい。やった側は忘れてもやられた側は覚えている。オンバク・ヒタムの旅は、戦争の足跡でもある。ヒトの性急な欲を見直し、潮の流れに耳をそばだてる為のものにしたい。

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