久田舜一郎さんを迎えるための心づもり

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久田舜一郎を迎えるに当たっての予習・心づもり

なにも、範を西洋に求めずとも良いわけです。ニューヨークやベルリンで何が起こっているか追っかけていかなくても、おたおたして情報を集めなくても良い。

西洋の人こそが、日本を、アジアを、東洋文化を求めて研究したり、往来したりしているでしょ。ミッシェル・ドネダは海童道の音・姿勢に参ってしまい、ニンさんは禅の修行をつづけ、マクロバイオティックの食事をし、イサベル・デュトワはイタコに会いに行ったりしています。

フランス・ナンシーヴァンドゥーブルで行われているミュージック・アクシオンフェスティバルは即興演奏(や現代音楽)に特化した世界で有数のものでした。久田さん・ミッシェルと2回出演しました。1回目本番の大ホールでのトリオを終えたあと、久田さんはすっかりリラックスしてアロハシャツに着替えていました。夜中に野外でセッションをしようと言うことになり、急に呼ばれました。

久田さんはアロハシャツのまま、月に向かって吠えた一声で、その場でウキウキしてセッションに参加していた全員を凍らせました。そこには世界中のインプロバイザーの他、IRCAM(ピエール・ブーレーズの集めた凄腕集団)のメンバー、ブルキナファソの部落から一歩も出たことの無かったミュージシャンなどいろいろいました。しかし久田さんの一声で、全員が久田さんを尊敬し、場の王様となり、フェスのピーク!として翌日の新聞を飾りました。

一休、良寛、沢庵など、よく名前の知られている僧たちの著作をちょっとでもひもといてみれば、そこは知恵の宝庫なのです。とんちや、アントニオ猪木の一休さんはいません、無絃琴の哲学を語る良寛さん、柳生新影流・武術を語る沢庵さんがいらっしゃいます。そこには即興演奏におけるヒント、日常生活のおけるヒントが、これでもかとばかりに溢れています。

人間には有酸素運動と無酸素呼吸があり、呼吸こそがエネルギーを生み出す。大きく深く息をしてエネルギーを溜め産み出す有酸素呼吸だけではなく、スピード社の水着を着て無呼吸で100メートル泳ぎ切るエネルギーもある。気合いを入れるとは無酸素呼吸の1つの形ではないか。

久田さんは、ご自分の出番が終わっていても舞台の袖で、じっと私やミッシェルの演奏を観ています。「能の本番に参考になる」とおっしゃってくださいます。

またある時、喜多直毅さんとのトリオで、いくつかの詩や言葉を用意して、どれかをやってくださいますか?と頼んでいました。

当日、選んできたのが「日本国憲法第九条」でした。勧進帳のスタイルでやってみたいということ。凄まじい演奏でした。この演奏はCDにも収めてあります。「6 trio improvisasions with Tetsu & 喜多 直毅 (Naoki Kita)

YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=TQa4WEXDwKc

昨夏、大町での原始感覚美術祭のフィナーレでは、久田さん、ザイ・クーニン、私、矢萩竜太郎、皆藤千香子というメンバーでした。私は再発後、強い抗がん剤が合わずにフラフラで、大げさではなく生きるか死ぬかギリギリの演奏でした。わたしも吠えていました。堰が切れたように演奏を始めた私に対し、久田さんは、演奏をしないという演奏をしていました。舞台を下がらず、じっと黙って、私のソロをどんどんやらせるのです。

自分は演じず、共演者に演奏をさせること、これは舞台人として究極の方法です。自分が演奏することに汲々とせず、その時その場でのあり得べき状態を作り出せば良いのです。

その打ち上げでは、マレーシャーマンのザイ・クーニンと「演出と嘘」の違い、ほんとうとは何か?について話し合っていました。

その後、ザイは天狗に夢中です。久田舜一郎さんは単なる音楽家ではなく、演出家であります。人生・世の中の演出家かもしれません。

4月11日 沼部「いずるば」19:00
予約は私の所でも受け付けます。どうぞよろしくお願いいたします。