間に合うように

間に合うだろうか

「〈いのち〉とがん」患者となってかんがえたこと
坂井律子著 岩波新書1759
この著者は、間に合いました。良かったです。
見習わねばなりません。
私にとっては生涯一冊の本になります。

同じ部位(膵臓)のがん、ステージも同じ、肝胆膵手術も同じ、抗がん剤も同じ、再発も同じ、時期も一年の違い、この本には私の主治医の論文も引用されていたり、とても他人事とは思えません。残念ながら亡くなりましたがこの本を残すことができました。膵癌の五年生存率は9%以下です。2019年2月20日第一刷。

私はこのチラシ(デザイン:真妃)の2回のWSの内容を最後に、本の執筆に入りたいと思っています。

「そして日本」とタイトルを付けました。文章はFBやBlogに書いたものを書き直したものです。

なんとか間に合うよう(生きている間に書き終わる)に願っています。

そして「日本」

春爛漫、2週にわたって「いずるばワークショップゲスト編」として沢井一恵さん・久田舜一郎さんをお一人ずつお招きしじっくりとお話をお聞きし、セッションをすることになりました。たいへん貴重なそして特別な機会に恵まれました。

ワークショップのゲスト編は、vol.1 ミッシェル・ドネダ、レ・クアン・ニン(即興演奏)、vol.2 ジャン・サスポータス(ダンス)、vol.3 岩下徹(即興ダンス)、vol.4 庄﨑隆志(俳優・ノンバーバルコミュニケーター)、vol.5 小林裕児(画家)と続けてきて、実は一段落ついていました。

私の音楽人生は、どこにも所属することなく、日本だ、伝統だ、韓国だ、即興だ、ジャズだ、アジアだ、ヨーロッパだ、南米だ、タンゴだ、ダンス、美術、詩、映像、書、歌、ノイズだと右往左往してきました。しかし、ここに戻るしかないところに戻ることになるのです。

はい、私の事情が事情だけにまとめにはいるつもりです。このセッションを区切りにして、私の生涯一冊の本を書こうと思います。そのためにもこの2回は不可欠でした。最後に残しておいたといえるかもしれません。

なにをどうやっても、どうあがいても、見栄を張っても、嘘をついても最後にでてくるのが日本。骨の髄に染みこんだものとは何?そんなものあるの?交換不可能?単なる幻想?日本語?山川草木?日本人?天皇?四季?自然?共同体?祭り?歌?

私は幸運にも、沢井一恵さんと久田舜一郎さんと出会う事ができました。沢井さんは、栗林秀明さんの紹介で30年前、久田舜一郎さんは神戸での阪神淡路大震災チャリティコンサートで25年前。おふたりとは、フランス、ドイツ、韓国、スイス、ベルギー、などに行きました。一恵さんとは、シンガポール、タイ、ラオス、ハワイ、カナダ、アメリカにも行きましたね。おふたりを演劇公演にお誘いした時は、小劇場の脆弱さを露わにしてしまいました。世界各地での演奏でも、新しいだけのムーブメントや、かたちだけやコンセプトだけのインプロヴィゼーションの弱さをさらけ出してしまいました。

ナンシーのフェスティバルで、名うてのインプロバイザー、アフリカの音楽家、IRCAMのメンバーを月へ向かって吠えた一声で沈黙させ場を仕切った舜一郎さん。韓国巫族芸能集団のリーダー金石出さん、ヨーロッパインプロバイザーのミッシェル・ドネダ、フレンチバスクのベニアト・アチアリと一瞬で繋がった一恵さん。

おふたりを見ていると、あたかも異端と異端の点と点がかろうじて結ばれていって確固たる「伝統」が出来るのではないかと感じます。伝統と伝統は決して繋がらない。いかにも「ニッポン」なものは決して日本ではなく、反日本的なものこそが本当の「日本」を繋ぐことになるのはないかと思うようになりました。わびさびが日本的と言ったら「ねぶた」は日本的なのか?阿波踊りは日本的なのか?日本舞踊は日本的?舞踏BUTOHは日本的?各地に残る奇祭は?

自分と思っている自分は自分ではなく、反自分が繋がったものが自分。即興の対義語は、作品ではなく、自分自身だ、という私の考えに沿う考えにもなります。さらに言えば、音になったもの「より」音にならなかったものが重要ということにも繋がります。舜一郎さんに「能は奥が深いのでしょう?」と聞くと「いや、型をやっているだけです」とあっさりお答えになります。一恵さんは、あの小さな身体を借りて巨大な怪物が演奏しているのではないかと思わせます。

「日本」を代表とするような邦楽・能、その箏・小鼓。沢井さん久田さんは、もしかしたら反日本を強く持つがゆえに本当の「日本」なのかもしれないと思うようになりました。私たちは今、異端が本流になるその瞬間を目撃しているのかもしれません。

箏曲の伝統には検校が欠かせません。盲の人達の伝統とは?能には様々な宗教や政治が絡んできています。そもそも音楽・芸能は人々の赤銅色をした岩盤あるいはマグマの上にあり、禍々しいものも避けては通れないでしょう。私たちは、火傷をせずにそこに触ることができるのでしょうか?

ピアソラはタンゴを、ミンガスはジャズを、パコはフラメンコを、ジョビンはサンバをつくればよかった。では、私は何を作れば良いのだ?作るものなどないのではないか?おふたりから何かヒントのかけらをいただけたら私たちの宝となるでしょう。

齋藤徹のワークショップ@いずるば(沼部)

❶ ゲスト編vol.6 沢井一恵さん 4月4日(木)
❷ ゲスト編vol.7 久田舜一郎さん 4月11日(木)
齋藤徹さんとのセッション+対談
時間: 19時から

◉久田舜一郎
能楽師 大倉流小鼓方 重要無形文化財総合保持者
1944年生まれ。大倉流十五世宗家、故大倉長十郎師に師事。各地で小鼓教室を主宰、指導している。関西を中心に全国の能楽五流の舞台に出演。
「久田舜一郎プロデュース伝統芸能」シリーズなど 能お囃子の「音楽としての可能性」を追求した企画と公演を各地のホールで続けている。「能サウンド・ミュージアムオブアートシリーズ」として 兵庫県立美術館・大阪市立東洋陶磁美術館・大阪市立美術館などでの公演を行うほか、各地での能と能囃子の普及発展をめざした企画公演、プロデュースに力を注ぎ、他ジャンルとのコラボレーションにも取り組んでいる。
2010年在トルコ日本大使館文化事業の参加ほか、 ヨーロッパ、アメリカ、メキシコなどでの海外公演にも多数出演。
http://www.geocities.jp/syougetukai/

◉沢井一恵
8才より箏曲を宮城道雄に師事。東京芸術大学音楽学部卒業。
1979年沢井忠夫と共に沢井箏曲院を設立、現代邦楽の第一線で活躍する一方、全国縦断「箏遊行」や、「トライアングル・ミュージック・ツアー」で日本各地70回の現代音楽コンサートを敢行。ジョン・ゾーン、高橋悠治プロデュースによるコンサートなど多彩な活動を展開。ニューヨークの BANG ON A CAN フェスティバル、ウイーン、メールズ・ジャズ・フェスティバル、パリ市立劇場などアメリカ、ヨーロッパ各地のフェスティバルより招聘を受け、KAZUE SAWAI KOTO ENSEMBLE で世界中のいろいろな音楽シーンに登場、ワールドツアーを展開している。インドネシアの舞踊家サルドノ・クスモとのコラボレーション、韓国のシャーマン金石出(キム・ソクチュル)達との即興演奏。ロシア人作曲家ソフィア・グバイドゥーリナとの即興、CD制作及び作品演奏は、99年発表の箏コンチェルト(NHK交響楽団委嘱)へと発展、シャルル・デュトワ指揮でアメリカツアー。(N.Y.カーネギーホール、ボストンシンフォニーホール、シカゴシンフォニーホール、リンカーンセンターなど全6コンサート)