「いずるば」ワークショップゲスト編ジャン・サスポータス

「一生涯、人前で踊ったりしませんことよ、あたくし」「そんなの恥ずかしくって踊れるものか、バッキャロウ、おとといおいで。」という人たちがみんな踊ったのです。ハハハ。愉快愉快。

ここでのWSでは、毎回、私の身体は絶不調。「ケモブレイン」(副作用により言葉がでてこなかったり、話が飛んでしまったり・・・)のせいもあるかもしれません。特に前回のミッシェル・ニンの会では、インタビューだけなんとかこなし、ライブはできずに帰宅。(ミッシェル・ニン・佐草夏美さんの素晴らしいパフォーマンスが繰り広げられました)

しかし、このインタビューをしたお陰さまで、今回に絶妙に繋がりました。すばらしい言葉を二人から引き出せたこと、それがそのまま今回にも繫がったのです。だってみんな(出演者・スタッフ・聴衆)精一杯生きているわけですので、繫がらないはずはないのです。世の中ってすばらしい、すべては奇跡で、すべては日常。

今回のゲストはジャン・サスポータス:前回に続き理知的なフランス人ですから、話はあくまで「明晰」です。曖昧な言葉で妙に納得してしまい、その場を流すような日本人とは全く違います。特にジャンさんは、大学は薬学部、数学・物理学もやっていた「理科系」です。

通訳は前回に引き続き八巻さん。彼女はもともとピナの仕事でジャンと知り合いだったこともあり、今回はまさにうってつけ。前回は即興音楽のかなり突っ込んだ話でしかも打合せ無し、私はといえば、気を使って助けられる状態ではなし、おまけにニンもミッシェルもとうとうと長めに喋るのでかなり御苦労をされたかと思いますが・・

さてさて、インタビューが始まります。最近話題の「当事者研究」ではないですが、前回はライブツアーにおける「私」の「不在の在」というところを切り口にして話を始めました。今回は私の「下手さ」をとっかかりにしました。抗がん剤の副作用で指が痺れ、手足が浮腫んでいて楽器の演奏ができるかできないか、の綱渡り。弾けたとしてもと〜ても「下手」なのです。

ところが、聴衆からはたいへん褒められることが相次ぎました。(私の病気のことを知らない人も多くいます)。「技術とは何?伝わるっって何?」という話題にふれざるを得ませんでした。本当のところを聞いてみたかったのです。

ピナ・バウシュカンパニーでのテクニックとは?ハンディキャップと言わずにチャレンジと呼ぶこと、ジャンとハンディキャップとのつながりなどなどいくらでも話は広がりました。特に信濃大町での美術祭、岩見沢でのアール・ブリュットフォーラムと経験してきたばかり、竜太郎さんもこの場にいるし、何時間でも話すことが出来そうな内容でした。

彼は、パリ郊外のブロア(私もミッシェルとのデュオツアーで行ったことがあります。地元図書館での演奏がシザーズのCDに収録。)の精神病院でも2ヶ月に1回、ワークショップに出かけていて、その時のとある女性のダンスの話などとても素晴らしいものでした。

ミッシェル・ニンが、自己が「消滅」して演奏する時に即興の目的を感じると言っていたのに呼応するように、ジャンは「落花生をポケットに入れて」(落花生=脳味噌を使わない、ということで、考えないでという意味。)ダンスする事を即興の素晴らしい瞬間と言っていました。(そうめったに訪れないが、との注つき)

また、ピナが「あなたが、どのように脚を動かすかには興味はありません、しかし、何があなたの脚を動かしているかが知りたいのです。」と言った話は莊子の音楽論(人籟・地籟・天籟)と符合しました。個人の身体や考えは、いわば「トンネル」で、その人の身体を借り、頭を借りてでてくるものは何?

話している内にジャンの魅力はその「人間力」とでもいうべきものだな、と思い、「ユーモア」(人間性)について話を持って行きました。Almodóvarのジャン評「世界一哀しい顔の男」は
間違い、いや、言い足りなく「世界一楽しい顔も出来る男」です。

ユーモア(語源は臍)は、決して人をバカにして得るものでは無く、臍を見ている時のようにホンワカとして共振して共鳴して行く、だからこそ、竜太郎さん・ジャンさんのいる空間では、聴衆全員が踊り出すなどという現代東京で起こりえない「暴挙」が起ったのでしょう。ええじゃないか。ええじゃないか。

ジャンが、聴衆を舞台へ誘って踊ると言う経験は40年前、南仏の小さなカンパニーにいたときにやったことがあり、実にそれ以来のことだったそうです。そのときは、薬剤師になることを諦め、ダンサーになると決意した当初で、心配した親が見に来ていたそうです。そして父親も舞台へ誘ったというホッコリする思い出も話してくれました。

レギュラーワークショップで大事な役割を持つ「一弦琴」でジャンに踊ってもらいました。一弦琴がいつしか無絃琴になり、笙やバンドネオン、サックス、ベースそしてすべての人の声の持続音とその断絶とともにジャンが踊り、自然に聴衆も動き出し踊り出し・・・で前半終了。

第二部のliveでは、私とジャンデュオ30分、竜太郎さんが入って10分、スタッフアンサンブルが入って10分、その後は、聴衆全員が参加!

そんな事が自然に起ったWSでした。正真正銘、なにかが「いずる」場になっています。次回は10/22 レギュラーワークショップ。