オンバクヒタムあれこれ

3/31に共演する日景晶子さんは、秋田生まれ、現在はサンフランシスコ在住。

私の仕事には「オンバクヒタム」というシリーズがあり大きな視野を夢想したものです。

きっかけの一つは歴史家網野善彦さんが引用していた「逆さ日本地図」(富山県制作)。

もともとの動機は韓国・琉球弧・インドネシアでの体験から、黒潮(マレー語でオンバクヒタム)を思い続けていました。

激しく興味を覚えたのは、親潮となり日本列島の太平洋側を豊かに流れる親潮ではなく、インドネシア辺りから流れ始め、琉球弧をすっぽり通り、九州の西岸を通り、韓半島に届き、最後には日本海側(北海道の西岸)に辿りつく(対馬海流)流れです。

この海流が文化(儀式・伝統・音楽・ダンス・美術・文学などなど)を運ばないはずは無い!ということを実感することが多くありました。それは儀式の形式、踊りの所作、音楽などなどです。

西表島の海岸で録音した時(CD「パナリ」)この海流が文化を運んでいるのが幻視されました。

今年のヴェネツィアビエンナーレのシンガポール代表となった旧友ザイ・クーニンが長年調査している「海の民」Sea Nomads の島(地図に無い島・ドンドン島)にも滞在しました。

何年も関わり合いのあった韓国のシャーマニズムの儀式・音楽にも繋がりました。そして、「黒潮回帰」を書いた詩人・吉田一穂の影響もあり、この海流こそ、行き詰まってしまった親潮文化の流れ(東京・大阪から太平洋越えてアメリカへ留学する)のオルタナティブになるのではないか、ということです。

日本史上でも、北前船などで大いに栄えていました。島根から青森が近く感じられていたようです。

ヨーロッパの南岸とアフリカの北岸をすべて含む地中海文化圏というのがあるのと同じように、インドネシアから流れてきた海流が日本海を囲む文化圏を作っている、あるいは創造することができるとの夢想です。

(この勝手な夢想の注意点は、この構想が八紘一宇とか大東亜共栄圏と重なる地図となる可能性もあることです。)

箏アンサンブル箏衛門(市川慎、梶ヶ野亜生、小林真由子、山野安珠美)とベーストリオ羊(瀬尾高志・内山和重・齋藤徹)が私の楽曲を演奏し、田中泯さんが自由に踊った座高円寺での「オンバクヒタム」(もう一つの黒潮)がいまのところ最後の成果です。

話を戻します。

秋田など日本海側の人達に、日本(ヤマト)とはちょっと違うものを感じることがあります。特に秋田人は「私たちはラテン系」と冗談を言うような明るさがあります。青森のねぶた・ねぷたも日本らしからぬ躍動があります。あんなに飛び跳ねる伝統ってどこから来たのでしょう?日本史のステレオタイプである弥生時代からのおとなしい農耕民というのとは違います。

土方巽、黒澤明、寺山修司、などなど優れて日本的でもあり、かつ、およそ日本的では無いというオリジナルな作品を世に問うた人達も多いと感じます。

晶子さんも、初めは宝塚に憧れて入学を狙ったことも有ると言います。レビューダンスに憧れ、歌うこと、踊ることが大好きです。その晶子さんが沢井一恵の内弟子になり教えを受け、さまざまな土地に箏普及のために滞在(ハワイ、サンフランシスコ)、その間に韓国伝統音楽にも衝撃を受けソロCDをリリース。現在は長くヒョウシン・ナ(作曲家)とのコラボレーションを続けています。

いろいろな曼荼羅が東日本大震災の縁で今回に至りました。

あれやこれやを想像しながらヒョウシン・ナさんの譜面を読んでいます。とても綿密に出来ている曲です。エアジンでのジャズと好対照な緻密な音楽です。しっかり読み込まねばなりません。

みずから「ハンディキャップ」となった私は以前と違う視点で「オンバクヒタム」「震災」のことを観ることが出来ると思います。