ビブラートについて
もともとビブラートはあまり好きではありません。バッハは特にそうです。コントラバスの特殊事情として音程を取りにくいのでビブラートで音程感を「ごまかす」という事もあります。これは避けたいね~、同業者諸兄!
ガット弦、特にプレーンガット弦を弾いていると別の側面からビブラートについて考えることが出来ます。
人はなぜビブラートが好きなのか?残響音が好きなのか?歌うときマイクにリバーブをかけたかるのか?
現在、コントラバス演奏の主流のスティール弦だと、発音してからビブラートを強くかけて、まるでえぐり出すように音を出す傾向があります。特にクラシックの「名人」と言われる演奏で顕著です。
それは聴く人の感情を持ち去るような効果をもちます。しかしそれは感情をある方向に限定していく傾向があります。「どうです?気持ちいいでしょう?」と強制される気がしてしまいます。
ガット弦、特にプレーンガット弦ではそういうビブラートはかけにくいのです。あくまでも発音の始まりの一瞬にプーンとまっすぐ伸びる音が一番大事。以後は減衰するのみです。ほとんどピッチカートと同じなのです。
私見ですが、そもそもビブラートが呼びさますのは人間の体内に70%存在する「水」なのかと考えます。
振動が体内の水を揺らす、その揺れは共振を引き起こすのではないか。右の耳と左の耳が微妙にちがう音程を感じるのだ、という説も興味深いことです。
複雑系の科学でいう「同期」。蛍の発光がいつしか同期すること、ばらばらなメトロノームがいつしか同期することとも関係している。
そして「揺れ」とは、「混ざる」こと。混ざるとは反応すること。純粋なものから複雑なものへ移行すること。エントロピー。
白川静さんの説によると「音」そのものが、神器に水を入れて伺いを立て、神が水を揺らして答えるというのが原義だといいます。
ビブラートの域を軽く越えた音程の揺れにも興味があります。
アルバート・アイラー、ビリー・ホリデイ、金石出、淡谷のり子、美輪明宏のビブラートは大きく音程を揺さぶり最早ビブラートの領域ではありません。音程感を否定するほどです。
アジェン、コムンゴ、カヤグムなど韓国音楽のビブラートも普通ではありません。日本の琵琶も。
振動を考えると音も色も同じ、さらに言うと万物の現象が振動とさえ言えるかもしれません。
明日のバッハ演奏を控えて、逃げるようにそんなことを夢想しています。
明日のライブで2ヶ月間日本を離れます。(明日、CD、DVDの販売します。)
25日 横濱エアジン 19:30開演 2500円 045-641-9191
次の日本は、6月6日のバーバー富士での喜多直毅さんとの帰朝報告デュオ、11日の詩人・音楽家・美術家の木村裕さんとのデュオ(公園通りクラシックス)、17日(キッド)18日(Candy)26日(エアジン)でのかみむら泰一さんとのデュオCDリリース記念LIVE、24日中ノ沢美術館での「土神と狐」7月1日エアジンの夏「竜太郎・庄﨑・徹・泰一」などになります。