挟み撃ち!vol.5 へのお誘い その4
「もう一回、自分が出している音を全部聴きたい」。突発性難聴のため、ベーシストなのに右耳の中音域以下が聞こえません。調子の悪いときなどは、ちょっとセンチになったりします。しかし、久田舜一郎氏曰く「私なんぞは一年中、蝉が耳のところで鳴いていますよ、はははっははは!」とあっけらかんなものです。
プロフェッショナルな小鼓奏者は100%強度の難聴なのです。それはそうでしょう、あの強烈な音を耳の間近で年がら年中、何十年も聴いているわけです。
修業時代はともかく毎日毎日殴られて過ごしたそうです。そして、修行が終わったその日からどの舞台に出ても大丈夫だとうこと。全ての演目の全てのパートを暗記し血肉にしているのです。
そんな過酷な修行が現代も続いているのか知りませんが、久田舜一郎氏の時代はそうだったと聞きます。他の伝統芸能と同様、稽古の録音・録画はもってのほか、師への質問さえ許されなかったわけです。
思い出すことがあります。元藤燁子(土方巽夫人)さんの晩年によく音楽をつけました。「大鴉」公演の時、元藤さんは頭にカラスの剥製を帽子のようにかぶります。お辞儀をする格好で幕が開く20分前からその姿勢を取っているのです。そのように振り付けされた、とおっしゃいます。そんな身体にキツイ姿勢で20分もいると言うことは今ではやらないでしょう。なにせ、お客様には全く見えていないのです。
あるいは、20分その姿勢でいることに「合理的な意味」があるのかもしれません、例えば、その間、完全な孤独を保つことができ、演目を考え、ポーのこと、土方のことを考え・・などなど。
ともかく、やわではない。頭で無く、身体で覚える。身体に優る頭は無いと言うがごとくです。「わからなく」で良いのです。頭で分かったってなんになる?
そんな修行をしてきたものにとって「型」というのは特別でしょう。あらゆる過程をへた「最終形」であり、かつ、「基本」であり、かつ、そこからいくらでも飛翔できる。
ブッパタールのジャン・サスポータス宅に私と久田舜一郎氏が滞在していたときがありました。私が桜間金太郎さんの1941年の録音をお聞かせした時、ふと目を閉じられ、その瞬間に桜間さんと同じ空間に飛んでいき、息を合わせて共演しています。21世紀のドイツの小都市と70年前の東京に地続きでした。
ともかくそう言う修行を経て、いままさにトップにいるからこそ自由に私などと共演してくださいます。沢井一恵さんと同じく、面白いことならなんでもやるのです。能の世界は、今でも戒律が厳しく、自由な活動はほとんどできないのですが、彼くらいになると誰も諫めることは出来ません。彼の能に対する膨大な知識と愛情、経験、啓蒙活動を知っているからです。
今回のこの公演に対しても、旅費・滞在費の請求は一切ありません。私への多少の信頼、そして、昨年ドイツ文化センターでの喜多直毅さんの演奏に触れた時からの期待、ただそれだけで関西からキッドアイラックホールへ来てくださいます。
ご来場のご検討をお願い申し上げます。
6月30日(火) 開場19:30 開演20:00
出演:齋藤徹(コントラバス)喜多直毅(ヴァイオリン)
久田舜一郎(小鼓・声)
会場:KID AILACK ART HALL(明大前)
〒156-0043 東京都世田谷区松原2丁目43-11
03-3322-5564
料金:予約¥3,000 当日¥3,500
ご予約・お問い合わせ:
電話 03-3322-5564
メール arthall@kidailack.co.jp