プーランプーラン・月に打たれて

間々田のスタジオプーランプーランへ
JRホリデイパスを買って北へ。「パナリ」「八重山游行」の録音の時にジャバラの森田純一さんが依頼して石垣で初対面した録音技師が小川洋さん。彼の個人スタジオプーランプーランがある駅が間々田。地名が「乙女」この近くの中学は乙女中学。プーランプーランとはインドネシア語で「ゆっくりゆっくり」という意味。スワヒリ語の「ポレポレ」と同じですね。「プラプラ歩く」「仕事もしないでプラプラしてばかりではイケマセンよ」ってインドネシア語だったのです。
自分のスタジオの名前に使うことでもわかるように小川さんのインドネシア熱は長く・熱いです。バリに関してはガイドブックのページを担当したこともあるそうです。初対面の石垣島・西表島での野外録音・ライブ録音では上記の2枚のCDができました。その時の経験と直感から私は「オンバクヒタム」プロジェクトに直接繋がりました。
書の壮弦さんはともかく「パナリ」がお好きで、「世界一聴いているはずです、10000回は聴いたでしょう」とおっしゃる。私は3回くらいしか聴いていましぇん。
その後、小川さんには、ソロ「Contrabajeando」「invitation」、井野さんとのデュオ「SoNAISH」「Amapola」、ジョエル・レアンドルとのデュオ「Joelle et Tetsu」ミッシェル・ドネダ初来日ツアーに同行してもらい「Pagan Hymn」、久田舜一郎さんCD「舜」、往来トリオ「雲はゆく」「櫻」、小松亮太を迎えたピアソラ集「Ausencias」とお世話になりました。あの頃のわたしのアリバイのかなりの部分を占めます。
脚色のない音そのものを捉えたいという彼のポリシーは決して揺らぎません。ジャバラのシリーズ、板橋文夫さんの最近の録音、奄美、沖縄、バリ、ジョグジャカルタの録音を大好評の内に進めています。今日、合間に聴かせてくれた抑制の効いたエイサー、スウェラシ島の自作楽器ブラスバンド、ビックリ仰天でした。
「オーディオベーシック」という雑誌に彼の録音CDが付録に付いていて、それ目当てのオーディオファン・音楽ファンはたくさんいると聞きます。その1つ私と井野さんの「amapola」はプレーンガット、銅巻きガットと2種類のガット弦の音を捉えた超優秀録音でこのシリーズでもめざましい売り上げを上げたそうです。
私の初録音「TOKIO TANGO」は今は亡き川崎克巳さんが録ってくれました。彼もオーディオ雑誌で活躍していました。その関係もあってオーディオ評論家に録音が評価されることが多く、その中でもカリスマ的だった長岡鉄男さんが気に入ってくれました。私も高柳さん経由でファンだったのでとても嬉しかったです。
長岡さんのオーディオルーム「方舟」に招待され、スゴイ音を浴びました。私の録音も聴かせてくれました。録音時の空気をそのまま再現していて、触れることができそうなのです、その空間がタイムマシーンでひょこっと現れたという感じ。驚いたのなんの。録音されたものにはもの凄い情報量があることを知りました。普通はそれを出し切れていない。しかも鉄男さんは、安価な素材を工夫して使っているところがかっこよかった。
そしてそして、当時の共同通信社のオーディオ雑誌で「長岡」番をしていた記者が小川洋さんだったのです。その後、独立して最初の仕事がジャバラでの仕事だったのですから、因縁浅からずと言ったところ。しかも大学時代はオケでコントラバスを弾いていたというのですから、コントラバスの音はお任せですよね。
さてさて、今日の目的は、「Moonstruck」(仮題)(ローレン・ニュートン、沢井一恵と私)のリミックスでした。実に久しぶりでした。ご自宅で遊んでいたお子さんはお二人とも独立、1人は東京でミュージシャン、1人は沖縄でナース。信じられませんでした。フランスワールドカップを奄美の民宿で一緒に見た話、中孝介君が学生服を着て母親に連れられモリジュンに会いに来て、なんとかしてほしい、なんて言ってた話。ウソのようですね。こちら歳を取るわけです。
ところで、このところかかりっきりだったベースアンサンブルDVDとのカップリングがこのCDになる予定なのです。実は、ローレンの発案のセッションでした。彼女にとってとても印象深い録音だったらしく、出すのに良いレーベルを探していてkadimaに行き着いたということです。次の文章にも彼女の入れ込み具合がわかります。
〈Moonstruck 月に打たれる〉
「2002年、横浜、あの心に残るコンサート。そして2005年10月17日、満月の夜、私たちは再会し、まるで 飢えたたましいが誘惑的でかつ腹いっぱいになりそうな 食べものにでも飛びつくように音楽した。あたりに満ちる月影に誘われそして生まれたその夜の音は、まるで月が呼気してあたりに満ちてゆき、わたしたちの心に沁みいった。月光は楽器を透して不思議なアレゴリーを語りだす。私たちは一心不乱に音にのめりこんでいったが、音楽そしてそのプロセスを早合点したり大袈裟になったりしないように気をくばった。すべてが音楽だ。私たちをとりかこむすべてのもの、蛾のはばたき、山犬の遠吠え、大波動音、木と木の、弦と弦の、ボイスと言葉にならぬ言葉が空間の中に轟く。その夜きっと私たちは月に打たれたのであろう」    ローレン・ニュートン
久しぶりに聴く音源。ローレンがこの音源にこだわった理由がよくわかります。最高の演奏をしています。代表作になるでしょう。完璧にコントロールされた音色の数々、技巧の高さ、ひらめき、どれをとってもすばらしい。一恵さんは、いつものように驚きに満ちています。この日の雰囲気でしょうか、苦み走った渋い17絃・箏、すばらしいの一言です。本当にいろいろな面を持っていらっしゃいますね。
東洋と西洋は、やっぱりどこか違うよね、とか話しているのに、これほど対等に即興演奏に興じることができます。それがなぜか矛盾しない。やはり即興演奏にはそれでしかできない大きな役割がある証しでしょう。
ミッシェル・ドネダ、ル・カン・ニンとのツアーでもその話題はいつも出るはずです。
 

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