即興に関するよしなしごと(10)

私の関係したCDの中でジャバラレコードの「アウセンシャス」というピアソラ集は、一定期間キングレコードが出したりして、ともかく1番売れました。一方、即興関係のCDは狭い居住空間を圧迫し続けています。CDには、商品という側面と作品という側面があります。横尾忠則さんは、イラストレーターから芸術家に変わったと言っています。注文があってはじめて成り立つイラストから、作品として自立している芸術作品へ。

「即興演奏のプロって何なのだろう?面倒だからやめようか?」などとミッシェル・ドネダと話題になります。何でも商品価値にしてしまう現在、ミッシェルの息音でも、私の横弾きでも商品として交換されます。まあ、そうしないと生活できないということも確実にあります。そうしなくても生活できないというのが実態ですが。

即興は、そのあたりにも、疑問を投げかけています。誰でもできること、年齢差・経験差・習熟度差・性差・民族差何もないところが大きな利点です。5分間くらいの演奏ならば、楽器のことを知らない人のほうが、私より面白いかもしれません。

長岡鉄男さんが取り上げるLPはとても刺激になりました。高柳昌行さんと競って買い求めたのも良い想い出です。滅多にお目にかかることができないような、尖った現代音楽から古楽、民族音楽など本当に差別無なく扱い、情報の少ない当時、コントラバスのLPの紹介はありがたいものでした。かれは所謂オーディオ評論家です。良い音の録音を探し続けているとこういう良い音楽に出会うと言っていました。私のソロLPを気に入ってくださり「方舟」という彼のオーディオルームに招待されたりもしました。

長岡さんからの情報で聴いたノンサッチの「Animals of Africa Sounds of the Jungle, Plain & Bush」(nonesuch H-72056)というLPにはビックリしました。アフリカの動物たちの鳴き声の録音です。当時、驚きを持って聴いていたヨーロッパのインプロビゼーションの音に似ていました。

何年か前のミュージックアクションフェスティバルで、フランスの若い演奏家が、最新の音響機器を駆使して川の水の流れや、鳥の声など自然音を出していました。締め切ったコンサートホールでした。外はカラッと晴れた良いお天気。外に出て、10分も歩けば、自然の音がいくらでもありました。

若尾祐・久美さんのやっているmesosticsに2枚のCDが扱われています。pulse of the planet (mescd-1001) は虫や動物の音、自然現象の音、宇宙の音がはいっていますし、bahia(mescd-1002)には、ブラジル・バイーアのサウンドスケープが収まっています。両方とも好きです。iTunesでシャッフルにしていてこれらの音がでてくるとギョッとします。

土方巽さんの舞踏は「売れる」ことを拒んでいたのではないか、という気がします。もっと言えば、売れる・売れないという次元を越えていた、「買えるものなら、買ってみろ!」という思いさえあったのではないでしょうか。商業主義の中では正反対のような「汚さ・病気」を前面に出す。エンターテイメントではなく、捧げ物としての側面を大事にした気がします。今のように拝金主義がここまで徹底するとは思っていなかったでしょうが、先見の明があったのでしょう。「人生そのものが即興なのだから、わざわざ舞台で即興をする必要はない」と言っていたそうです。

ヨーロッパでは舞踏をコンテンポラリー・ダンスの中の一ジャンルとして扱っているように見えますが,根本的なところで違うのではないかと思います。そこを徹底したのが土方さんだったと今にして思います。

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