先日のむがさり(結婚式)でも、ヴィオレッタ・パラさんの「ありがとういのち」の演奏の後、思いがけず、多くの拍手があった。雑然としたパーティでも人の耳を奪う力があるのかと思った。
「ありがとういのち」は「人生よありがとう」という訳で知られていた。彼女が若くしてピストル自殺したこととの関連で、人生を思い返して感謝しているという連想があったのだろうが、この歌を高橋悠治さんは「ありがとういのち」と訳し直した。そうすると、生きていて良かった、人生はすばらしい、というまったくちがう見方ができる。
曲・歌詞ともに優れていて、フォルクローレ系の音楽家には必須の曲だろうし、タンゴのロベルト・ゴジェネチェ、ブラジルの国民的歌手エリス・レジーナもレパートリーに入れている。前出の悠治さん訳は高田和子さん(三味線)の弾き語りのためのアレンジに使われた。喜多さん、さとうさんともこのバージョンには心打たれたと言う。
多少は知っていたヴィオレッタさんの美術作品を特集したDVDを観た。いやはや驚いた。これは、歌手が片手間にした仕事ではない。絵画、タペストリー、針金細工、仮面、立体、多数の作品がある。一人の美術家として紹介されるべきものだろう。スペイン語とフランス語でよくわからないが、パリのルーブルでの個展の様子が核になっているドキュメンタリーで、自作の説明、制作風景、演奏風景も収録されている。彼女の生誕90年記念のDVDのようだ。
日本でヴィオレッタさんの本は、「エル・フォルクローレ」浜田滋郎・晶文社、「歌っておくれ、ビオレッタ」B・シュベールカソー、I・ロンドーニョ、新泉社、「人生よ、ありがとう 十行詩による自伝」ビオレッタ・パラ 現代企画室、CDだと「最後の、そして永遠の作品集 ビオレータ・パラ」オーマガトキOMCX-1063 が手に入りやすい。やはりチリの社会派フォルクローレ歌手という面が強調されている。
美術家の側面はあまり知られていない。そればかりでなく、フォルクローレの歌手としても充分に伝わってはいないのではないか。
遺族の意思もあって出された4枚のCDは、うれしい驚きで満ちている。「ジュネーブのヴィオレッタ・パラ」という2枚組のライブはフランス語で話しかけ、悦びに満ちた溌剌とした演奏だ。スイス人の恋人との共演という幸せな時でもあるのだろう。ギター演奏も本当に凄い!( iTunesに入れるとなぜか韓国語でタイトルが出てくる不思議もある。)
ギタリスト、作曲家としてのヴィオレッタさんも本当に凄いのだ。「ギターのための曲集」というCDでは、12分以上かかる物語のような曲も入っている。それはユパンキはもちろん、カエターノやシコの「文学性」を思い起こし、さらには越えている気さえする。チリの地方を回って集めた曲集、10行詩に曲をつけたCDも合わせてじっくり味わいたいものだ。
寸暇を惜しんで、音楽に、美術に、愛に、いのちを燃やしていた一人の女性ヴィオレッタ・パラ。