バイオリン

小林裕児さん個展で、喜多直毅さんがモデルと思われる2枚の絵を見ていて、ロシアや中央アジアそしてロマ、ユダヤへ連想が飛んでいく。

2枚とも、身体から離して弾いている。近代のバイオリンに付いているアゴ当て・肩当てがない。古楽器にはもともと無い。直毅さんと演奏してまだ1年半くらい、まだ10回もないが、彼はよく楽器を顎から離して弾いている。より自由な雰囲気がでるが,弾きにくいのかと思っていた。一方、顎で楽器を挟んで弾く姿勢は身体には不自然だし、耳の極近くで音が出るので、その音は耳にいたいだろうと思っていた。

パミール高原にありました。このオシャレなおじさんはこうやって女性ダンサーと一緒に踊っています。直毅さんもなんとか演奏とダンスを合わせたいと思っていたらしく、興味津々でした。スミソニアンからでている中央アジアシリーズの1枚(DVD付き)

ギャラリー椿の楽屋代わりの部屋で、ナオカさんとナオキさん初対面の時、なぜかコサックダンスの話になりました。このあたりも「変」ですね。ナオキさんは、コサックダンスが気になって仕方ない、前世の因縁かもしれないとマジ顔でいう、ナオカさんはちゃんとコサックダンスの所作をいろいろ知っていて、二人で盛り上がっています。しかし、なぜあのような過激な振り付けなのか、どういう歴史があるのか。ブラジルのカポエイラのように、コサック兵の武術や軍事目的もあったのではないか。武術とダンスの話になるとジャンさんの「気の道」にもどこかで通じてきます。

ジャッキー・ジョブさんと初共演をした青森県美術館のイベント「アレコ」は、シャガールの巨大な幕絵で飾られた空間で行われました。その内の1枚では熊がバイオリンを弾いていました。そういえばシャガールにはバイオリンの絵が多い。「中東欧音楽の回路 ロマ・クレズマー・20世紀の前衛」伊東信宏著、岩波書店によると、シャガールはユダヤ人のゲットーのようなところで生まれていて、牛や、羽根の生えたニシン!までバイオリンを弾いている絵がある、そしてシャガールの絵のバイオリンが奏でている音楽はクレズマー音楽にちがいない、というのが彼の主張。

ロシアつながりでいうとストラビンスキーの「兵士の物語」はバイオリン奏者が主役(悪魔が主役ともとれますが・・)。私のクラシック演奏の初体験がこの曲だったので思い出深いです。小節ごとに拍子が変わる面倒な曲でした。指揮者や譜面をしっかり見ているとかえって間違えやすいので、ムズカシイ部分は覚えました。ストラビンスキーはこの兵士にタンゴやラグ・タイムも演奏させいます。けっこう良い曲です。ストラビンスキーのジャズ風の曲で有名なのは「エボニーコンチェルト」ベニー・グッドマンに捧げられています。かれはロシア系ユダヤ人。ベニー・グッドマンのためにバルトークが書いた曲「コントラスト」でバルトークと共演している音源も残って居ます。バルトークはトランシルバニア生まれ。ユーディ・メニューヒンが貧困のバルトークのために委嘱した無伴奏バイオリンソナタは大変好きな曲です。

メニューヒン、ギトリス、クレーメル,スターン、パールマン、オイストラフ・・・個性ある名バイオリン奏者はロシア・東欧系のユダヤ人率が極端に高い。彼ら無しには、バイオリンの演奏史は語れないし、ほとんどのバイオリニストはその影響を受けざるを得ないのでしょう。

西洋クラシック、タンゴ、ロマ、アラブ、即興を弾き、変な踊りをするナオキさんは、ひょっとするとバイオリン史のど真ん中を無意識のうちに体現していることになるのでしょうか。

同じ編成のベラルーシの楽士
同じ編成のベラルーシの楽士

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