パリのちょっと外側モントレイユ、(東京で言えば吉祥寺あたり)にあるインプロビゼーションを主に企画・主催しているライブハウス「レ・ザンスタン・シャビエwww.instantschavires.com」が予算削減によって存亡の危機に瀕している。その知らせを受けてフランスらしく署名運動が起こっている。http://instants.mollo.fr 三日目、各国のミュージシャンも多く署名していて、あっという間に1200を超えている。(名前などを記入して、一回送信するとメールが来ます。もう一回クリックすると署名完了です。Eメールアドレスや住所は公表されません。)
かつてラジオ・フランスの即興番組存亡の危機の時、署名運動により存続がきまり、今もちゃんと続いている。(たまたまプロデューサーのアンヌ女史が8月に日本に来るという連絡を受けたところ。)ナンシーのミュージックアクションフェスティバルにも多くの署名が集まったが、今年やむなくキャンセル。しかし、来年は復活する。
モントレイユという街は、昔から反体制で名を馳せている。ジャンゴ・ラインハルトの生まれた街、あるいは、首都バマコの次にマリ人が多い街ということ。私が出演したのは、今井和雄・沢井一恵とのトリオにミッシェル・ドネダがゲストというフランスツアー中だった。ニン・ル・カンは欠席だった。
ぎっしり満員の会場。ポトラッチのボスとか、評論家も多く聴きに来てくれていた。会場の聴くエネルギーに応えるように演奏が進んでいったのを強く思い出す。それまでと全く違った音になっていったのだ。特に一恵さんが長く「待つ」演奏をしたのが印象的だった。入場料には失業者割引もあった。泊まったホテルのフロントは、コンセルバトアールを首席で卒業したトランペッターだったが、政治的主義によって音楽の職業には就けないのだということ。
翌朝、またレ・ザンスタン・シャビエにおじゃました。その時、何事かさかんに論議をしている。聞くと、ここで録音した音源をラジオ・フランスで使わせてくれと言う依頼をどうするか、ということだったそうだ。結果、断ったと言う。
日本では、ミュージシャンも音楽ライターもどんどん保守化しているように見える。止めどなく保守化する社会のお先棒を担いでいるようだ。「自分が正しい」と思った瞬間に保守化は進む。「だってしょうがないでしょう」。「即興」は、作曲も伝統もすべてを含む大きなくくりであり、人の心の柔らかさを試すメスになる。「癒しを安く買おう」とする耳には届かない。