愛器 “BARRE”を一週間修理に出したため、一台借りてきた。トマス・マーチンさん(ロンドンフィルなどで活躍した演奏家 http://www.thomasmartin.co.uk/ )が演奏家ならではの視点とアイディアを盛り込んで創った名器。素晴らしい木をふんだんに使っている。
調整もうまく行われていて、いますぐオーケストラ・室内楽で使用可能な状態。当然のように、スティール弦が張られてある。細い!この楽器の一番太い弦が、私が使っている一番細い弦とだいたい同じくらい(あるいはより細い!)。何年もガット弦、それも特に太い弦を弾いているので、ほとんど針金のように指先に食い込む。
これほどの差があるとは今更ながら驚いた。私の一番細い弦が、現行の一番太い弦と一緒と言うことは、ほとんど違う楽器と言っていいのではないか。そして全く違う音がする。「CDをかけているのかと思った」隣の部屋に漏れている音を聴いていた娘が言った。
そう。所謂「うまく」聴こえるのだ。指は速く動くし、音程をとるのも楽、隣の弦との音質の差がすくないので、横に動きやすい。高音部も楽に弾ける。「雑音」に聞こえる余分な倍音が少ない分、輪郭がはっきりしていて遠くへ届くのだろう。大型のチェロのよう、そう、すなわちヴァイオリン・ヴィオラ・チェロと同じ仲間の低音部という役割で、一つの弦楽器音響の低音部を担うわけだ。
コントラバスは音程を取るのが一仕事だ。ほとんどの奏者は「うまく」なることを目指し、練習する。せっかく習得した技術だ、いまさら下手に聴こえるやり方を選ぶことはほとんどあり得ないだろう。
私はやはりかなり変なのだ。自分の技術を使えないように横にして弾いたり、コントロールが効かない奏法を敢えて選んだりしている。そもそも「目的」が違うのだから、当たり前といえば当たり前。そんなことを再確認した体験でした。