西方へのツアー その6

京都駅八条口、タクシー乗り場にはいくつか、あまり芳しくない思い出がある。観光シーズンなどはなかなかコントラバスを乗せてくれない。頼りのMKタクシーも小型車の助手席が倒れない構造になってしまった。今回は運が良く気さくな運転手の大型タクシーがたまたま客待ちをしていた。錦鱗館は二回目。真正面に大文字の印が見える。前回は小林裕児さん・岩下徹さんとのセッションだった。満月の晩で岩下さんが踊りながら途中で外に出て、聴衆も外へ誘った。京都のオトナの遊び心と厳しさを兼ね備えた場所。

今回もお世話になったA画廊のKさんは、この場所を借りてスイスの現代アート展をやっていた。私も来年スイスの仕事(ロラン・バルトの「表徴の帝国」を題材としたアートイヴェント)があるし、今夜はスイス人のピアニストもゲストで参加するし、なんだかスイスづいている。文化関係の予算が残っている数少ない国ということか。

Kさんはベースの音がお好きということで、色々とお世話になっている。バール・井野さんとのオクトーバー・ベース・トリローグ、ミッシェル・ドネダとカン・テーファンとのセッション、久田舜一郎さんコンサート、ジャンさんの宿舎を提供してくれたり・・・・。忘れられないのが私の退院直後のソロ。不安だらけだったので、気持ちがありがたくてありがたくて・・・・一生覚えているだろう。

早めに到着しゆっくりしているとローレン・ニュートン/森さん夫妻登場。森さんがビシッと衣装をきめている。どうしたの?と聞くと「仕事仲間の建築家ピーター・ズンドーさんが高松宮・世界文化賞をとったのでパーティに行ったんだよ、そうしたらドレスコードがあってさ・・・・」生まれて初めて白いワイシャツ(変な言葉)を買ったそうだ。

ピーターさんは20人くらいの少数精鋭スタッフでそれはそれは丁寧な仕事をしているそうだ。森さんは彼の建築の中のインテリアでカーテンデザインを担当している。ピーターさんのすごいところは、予算が削られると、何とか完成させるのではなく、辞める。中途で壊された建築もあると言う。利潤追求の世の中でそれを貫くのは大変なことだろう。多くの人がそこで転ける。私も転けそう。そういえば世界文化賞の音楽賞を何年か前にとったオーネット・コールマンさんも同じように強い意志で仕事をしていたという。

ローレンさんはとてもテクニカルなヴォーカリストだ。インプロは共演者に合わせた演奏になるため、ローレンさんとの場合、私もとてもテクニカルになる、というか、テクニカルな部分が引き出される。ある種の小気味よい快感が得られる。この日はリラックスした部分もでて彼女の多彩な魅力が披露された。

ピアノのクリス・ヴィーゼンダンガーさんは二日後に京都で日本人女性と結婚式を挙げるために来日中。ローレンと同じ大学で音楽を教えている縁でゲスト参加。幸せ絶頂の彼は普段オーソドックスなジャズやトニーニョ・オルタとブラジル音楽をやったりしているが、今回はインプロ一本で勝負に出た。フィアンセやフィアンセ家族の前で自分の得意な音楽を聴かせたいのではないかと思ったが、高いミュージシャンシップが「その時その場」の音楽を最優先させた。こういうところもヨーロッパの演奏家の気持ちの良いところだ。時折、顔を真っ赤にして熱演していた。

一時間のユーモラスな(人間的な)即興が終わり、打ち上げ、Kさんの京都別宅に泊まる。翌朝京都駅まで送っていただき、新幹線車中、志ん朝師匠の「文七元結」で楽しく過ごそうと思っていましたが、不覚にも泣けました。

今回も多くの人々のお世話になり終えることが出来ました。ありがとうございました。

旅の終わりは旅の始まりか。

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