匿名

「Audio Basic」付録CD用の原稿依頼で、コントラバスの基礎知識、私と楽器、曲目解説などを書きながら、あらためて思うことしきり。なぜこの楽器、そしてその仕事をやり続けているのか、始めの頃は何を考えていたのか、なぜこの楽器はこんなに大きいのか等々。仕事になると、当たり前になってしまって忘れてしまうことが多い。

先日のPlanBライブで、恒例のようになってしまった演奏後の雑談会でお話しした原田正夫さんが「Orbit1」の評を書いてくれていた。
原田さん評 http://www.jazztokyo.com/
(ENTERで入って今週の新譜でorbit1のジャケットを押す。)

所謂「評論家」達からは聞くことのできない内容で面白い。作曲家の一ノ瀬響さんは、早稲田大学での講義で「Orbit1」を学生に聴かせた、と言う。そう言えば、所謂「評論家」の人たちから「なるほど」と思う事を聞いたことがない。第一 PlanBにそう言う人たちが来た試しはないのだから話にもなりません。でも、このライブの何日か前、PlanBで評論家が何人か集まって話をする会があったそうで、その時は私たちのライブの10倍もの人が集まったそうです。どこか変。

原田さんの評の中で「匿名」という言葉が出てきました。私も良く引き合いに出す言葉です。尊敬するシコ・ブアルキの新譜にDVDが付いていて、シコにはめずらしく英語字幕が付いてました。小説執筆に没頭した後、久しぶりの録音現場。シコの生の声の意味が分かって大変うれしい。(このところ出た彼のDVDはジョビン、演劇、政治、サッカー、文学、サンバ、などテーマ別になっていて、話していることがとても重要で面白そうなのだが、字幕がないので歯がゆい想いをズーーーーーッとしていました。)

どうやって曲を作るかの話で面白かった発言。「道で私に曲を売る人達がいるんだ、それを買うんだよ。だいたい馴染みの人たちから買うんだ。レコーディングになると彼らを呼ぶんだ。売り物の良いサンバはあるかい?新しいヤツは?とね。だいたい8~9人と仕事をするんだ。匿名のね。私の仕事は彼らを見つけることなんだ。かっこいい男、少女、引退している老人、半分できあがったのを持ってくるヤツ、質が悪いのを持ってきたり、毎回同じようなものを持ってくると交代させるんだ。そして新しい人たちと関係を始める。今回はアーメッドというヤツ。彼のことは何も知らなかったけど、よかったんだ。でもヤツはものすごく高く付くんだ。私は本当に彼の曲が必要で、彼はそのことを知っているのさ。それでずいぶん苦労するんだ。契約したのに曲を持ってこない。一部分だけ持ってきたりして私をいらいらさせる。曲を持って来たときも、” 詞は?” と聞くと、” ちょっと待って。想像していたよりもむずかしい。” “どういう意味、アーメッド?” “わかっているだろう?” そんなこんなで大枚をはたいてしまう。大変なんだ。だから私が曲を書くんじゃないんだよ」

アンゲロプロスの「永遠と一日」で言葉を買っていく詩人を思い出してしまいます。

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