オーディオ雑誌「Audio Basic」の次号(9/10発売)付録CDの録音で忙しくしていました。SoNAISHガットベースデュオ(井野さんとのデュオ)です。2万部を刷るというので、著作権フリーの楽曲という条件。選曲、リハ、大変でした。マライカ(タンザニア民謡)、鳳仙花(朝鮮民謡)、アメージンググレース(スコットランド民謡・黒人霊歌)、花祭り(アルゼンチン民謡)、アマポーラ(キューバ民謡)、ユンタ(沖縄民謡)、月ぬ美しゃ(八重山民謡)、島育ち(奄美の歌)四季の草原(モンゴル民謡)などの民謡系、想いのとどく日(ガルデル)、帰郷(ガルデル)、ラ・クンパルシータ(ロドリゲス)などのタンゴ、ブラジルのショーロ(ナザレー)、アダージョfromバッハのフルートソナタ1034、夢見る人(マラン・マレ)でした。
民謡はいわば人類の遺産ですので、ものすごく強いです。圧倒的です。一曲が終わってもなかなか次に移れません。また、自分たちなりの表現などはあまりに小さくて小さくてあほらしい。逆に、どんな風に扱っても全く揺るがない!結局はめいっぱい演奏するしかない訳です。「鳳仙花」の後などは、録音の小川さんともども「歌にあたった」「やられた!」という感じで長い休憩を取ってしまいました。丸一日ホールに缶詰状態でした。帰っても発散というより疲労が強かった気がします。
一日おいて酒井俊さんとのデュオ。今年一年続ける約束で月に一回なってるハウスで継続中です。考えてみれば、酒井さんが持ってくる曲は、ブレヒトソングや私の曲の他は、「しかられて」「四丁目の犬」「しぐれ」「ヨイトマケの歌」「old black Joe」「Amazing Grace」など童謡や民謡系が多い。ベースと歌のデュオでこういう歌を演奏するのはとてもチャレンジング極まりないことです。ともかく楽器を持ってステージが始まってしまうので、何とか知恵と心を絞って毎回毎回務めてきました。
その経験が今回の録音にも役に立ったのでしょう。ものすごく強いものを持ったメロディを弾くには、できるだけシンプルに丁寧に弾くしかない。いろいろな工夫・意匠で目先を眩ませても、その場は乗り切れるが、結局ダメ。そういうことが、酒井さんとのデュオで身に染みていたからです。
オーディオ誌の録音と言うこともあって、2種類のガット弦を使い、その差を知ってもらうようにした。わかっていたのですが、その差に予想以上に驚いたのは私たち自身だったかもしれません。オリーブという金属巻きのガット、ガムーという生ガットの差は音楽自体を変えてしまいます。お好きな方には、アネル・ビルスマの2種類のバッハ無伴奏チェロ組曲の差といえば少しおわかりかと思います。しかし、コントラバスでの差はその何倍もあります。
こういう状況で、真摯に楽器に向かってメロディを紡いでいくと、どうしても生ガット弦に惹かれていきました。やはり楽器の生まれ育った調整が楽器には染みついているように感じられます。一方、金属巻きガットは、音も大きく、音程もハッキリして、断然弾きやすい。今の音だよな、と感じられます。しかし、オリーブからガムーに張り替えると、オリーブの音が「学級委員?」のような音に感じてしまいました。
そして、今コントラバス奏者の9割は、ガットは使用していません。より倍音の少ないスティール弦になっています。カラヤン時代のベルリンフィルコンバスセクションはより細いソロ弦を弛めて使っていたと言うことです。
ガットにこだわることは、世の中の流れに沿っていません。こういう特殊なこだわり、専門化、は言ってみれば贅沢です。でもこのこだわりは止められそうにありません。どうしたものでしょうね。