いのちにつながっていることに関しては女性に叶うわけがありません。なにしろ直接つながっているのですから。
ハンディキャップをもつ子供をもつ母親の強さって言ったら半端でありません。おたおたする父親を尻目に瞬時に現実を認知して覚悟を固めて行動に移す。京都でもそんな強く美しい母親達にお目にかかりました。自然に頭が下がります。
男女の自殺率の差は世界的に共通しています。もちろん男性のほうが断然高い。生きるの死ぬのと騒ぐのはだいたいオトコ。そんなこと眼中にないのがオンナ。
このところの日本での女性・若年層の自殺率の増加(および幼児虐待)は大自然・生命史の「異常」です。そんな酷いこと、生命史上大変な事態になっているのかも知れません。
4月4日にお迎えする沢井一恵さんは「強い」と評判です。並の強さではありません。私が手術後の傷口の痛さにヒーヒー言っていたら、「子供を産む時の痛さほどじゃないでしょ?」と「励まして」くれました。3人のお子さんを産んだ彼女に言われるとぐうの音も出ません。
「医者がね、私の手のレントゲン写真を撮らせてくれ、って言うのよ、こんなに変形しているのがとても珍しいからって」3歳から箏・十七絃を弾き続けているために手・指が完全に変形してしまっているのです。「身体が変形するのをプロという」という説も聞いたことがありますがまさにその例。
ご一緒にニューヨークJFKで降りた時、一恵さんがなかなか通関から出てこないのでずっと待っていました。大分経ってようやく出てきたので、聞いたら「指紋が無いから、怪しまれたのよ。スパイやテロリストが指紋を消すのと間違えられた」と言います。長年弾いているので指紋が消えているのです。日本の箏の場合は右手は爪をつけるので、この場合は左手で弦を押す動作を繰り返すので指紋が消えたのでしょう。
ご家族にご不幸が続いたころはほんとうに言葉を絶する状態でした。そんな式に参列したとき「良い人から先に逝くのよ。」と私にささやきました。
そして、こういう「強さ」がそれを上回る底なしの「優しさ」で支えられているのは直ぐに分かります。
あの華奢な身体を何者かが使って演奏させているかのように見えるときがあります。それほどの負荷がかかっているので指は変形し、指紋は消えるのでしょう。
インプロの時は、スティックで弦を叩き、ガラスコップで擦り、最後の1音でコップを割ったのも目撃しました。
これもそれも、箏・十七絃のほんとうの良い音を知っているので、人一倍「叩きたい」はずはなく、奇をてらったようなことをしたくないのです。その彼女が「叩き」「擦る」ところに大きな意味がでてくるのです。
技の1つとして叩いているのでは決して無いところが、他のどんな箏奏者とも違うわけです。彼女の出した音とそれを支える出さなかった音の総体は巨大かつ豊潤なのです。
もうこの世の中の大概のことは経験済みなので、普通の活動には飽きているはず。その中でも興味がわくものには抗いがたく音を出す。そこも良いな〜。
ピナ・バウシュは「あなたがどう足を上げて踊るかには興味はありません。なにがあなたの足をそのように上げさせるのかに興味があるのです。」と言ったそうです。荘子の音楽論(天籟・人籟・地籟)に相通じます。
何が沢井一恵をそうさせているのか、その秘密を垣間見る対談・セッションにしたいと思います。