十七絃・バンドネオンおさらい その2

 

十七絃とバンドネオンのおさらい 2

栗林秀明さんと出会い、充実した時期が長く続きました。邦楽へのまたとない入り口だったのでしょう。彼のリサイタルがあった年なので30年前です。(平成元年でした。)

今でこそ、ライブハウスに邦楽器奏者が出演するのは当たり前になっていますが、30年前は、ある種「いろもの」的に見られていました。本当です。しかも即興演奏だったものですから、環境との温度差はかなりありました。そこに「弦楽四重奏」とぶっきらぼうにネーミングしたグループ(栗林秀明さん十七絃、佐藤道弘さん津軽三味線、広木光一さんギター、わたくしコントラバス)で演奏を始めました。当時正確に評価してくれたのはフレッド・バン・ホーフさんでした。ベルギーのフェスに招待してくれました。(叶わず)

なんにしても加速する我が宿命、そこに雅楽器(笙・篳篥)琵琶 箏アンサンブル が加わるまで時間はかかりませんでした。そして、そこに韓国のシャーマン音楽が加わったのが「ユーラシアン弦打エコーズ」というコンサートでした。(玄界灘は深く・遠いのよ、という一恵さんの意見を裏付けるほどの差異については別に書きましょう)

わたしの夢想を強力に実現させてくれたのが沢井流でした。

沢井流の十七絃の特徴は(私の感じる):

その音を表す擬音が「カンカン」と言う音という強いアクセントの音。

おどけて「ボロンチョ」というように、寿命前のボロボロになる直前の音を好む。
(地面に穴をほって弦を張り弾くというブルンジの民族楽器を一恵さんは大好き)

検校の楽器だった特殊性、邦楽の美学、世界楽器としての可能性、最先端な音楽を実現、などさまざまな相容れないように見える要素。(沢井一恵の中では当たり前のように並立しています。)

箏・十七絃の見逃しがちな特徴として、奏者の身体から遠いほど低い音、身体に近づくほど高い音であるということがあります。世界中の楽器でほとんどのものは、身体に近いほど低い音、身体からはなれるほど高い音という暗黙の常識があるように思います。高い音は身体から遠くへ飛んでいくイメージです。

ところが、箏・十七絃は、音が高くなるにつれて身体に近づき、奏者に音を突きつけ、さらに身体を通って頭に抜ける。

音が低くなるにつれて地面をえぐり空想上の最低音へ行きつき、一気に全体が解放され、おおきな輪を描き身体に戻ってくる。

これを活かし、韓国のチャンダン(長短)をイメージしたのがKOTOヴォルテックスに委嘱され書いた「ストーンアウト」を貫く考え方でした。リハーサルで箏奏者の呼吸が全く違っていたことを発見。呼吸をしない美学(汗はかかない)、指揮者がいなくてもリーダーの肩の動きですべてを察することなどを知りました。

アウフタクト(前拍)を溜めて強調し1拍目で発火するようにしてダンス性をうみだす世界の音楽に対し対照的です。(ワルツ、タンゴ、韓国伝統舞踊など)

古武術の呼吸法と似たものを発見し、可能性を見たのはずいぶんと経ってからでした。

シンプルであるがゆえにいろいろな可能性をもつ十七絃。特殊技法の開陳で、もてはやされた時代はとっくに過ぎています。深山マクイーン時田さんがどんな未来を切り開いて行くのか。

バンドネオンが「哀愁」の音に縛られていると前回書きました。

しかし、もう一つあるのです。強力な反対要素が!

それは、プグリエーセ楽団のジュンバというリズムを刻む時のバンドネオンです。

レコードで聴いている時には全く分かりませんでした。
エキストラでブエノスアイレスへ行きプグリエーセ楽団と共演するという幸運に恵まれたおかげで体感できたホンモノのジュンバ。

これ以上単純化できない2拍子。前拍は重く溜まり加速度がつき一気に解放される。アストル・ピアソラも最後期の作曲・演奏でジュンバ回帰を繰り返しました。現在も3・3・2のピアソラビート(ミロンガのエイトビート化)とジュンバが生き残っています。プグリエーセ・ジュンバを演奏する若者が世界中にいかに多いか!

現地でのプグリエーセ楽団、娘のベバ・プグリエーセ楽団のジュンバはまったく別次元でした。ピアノとコントラバホで低音をえぐり(ピアノの左手はゲンコツで低音部をぶっ叩きます)それにたいするバンドネオン群は音程感のない高音域の雲で答えます。猛烈な音圧と足踏みだけなのです。それはぶっ飛んだノイズミュージックでした。隣の街までジュンバの響きは聞こえたよ、という逸話が残っています。

哀切たるメロディを歌う一方でノイズを音圧でだす。この両極端がバンドネオンの可能性でしょう。

さて台風接近の日曜ですが、どこまで行けるでしょうか?楽しみです。

江古田音楽化計画 2018Vol.3~月神宴~
齋藤徹・鈴木ちほ・マクイーン時田深山
2018/09/30 @ Foyer ekoda
13:30 open 14:30 start
¥3,500 予約 ¥4,000 当日
Foyer ekoda:練馬区旭丘1丁目33-10
03-3953-0413
予約・問い合わせ:ue6.1002@gmail.com
江古田音楽化計画 樋口