そして我が楽器 コントラバス

そして我が楽器コントラバス

私はコントラバスを「倍音」と「雑音」の楽器と捉えています。とてもシンプルです。

それが活きる音楽をこの楽器で演奏したいのです。逆に言うと、それが活きなければやる気は失せます。

生音・ガット弦・松脂・弓にこだわるのもそのためで、変則チューニングをしてリディアン旋法を弾くのも、楽器を横たえて弾くのも、スティックを使うのも、ビーティックを使うのも、マイクやアンプを使いたくないのも、そのためです。

更に視点を変えて言うと、できるときにはこだわりますが、できないときはまったくこだわりません。ベニアでも鉄弦でもな~んでも良いのです。楽しむことができるようになりました。

ご多分に漏れず、初心者の頃は、高音域をチェロのように、バイオリンのように弾くことに憧れたりしました。細くしっかり作られた金属弦を使い、さらにソロ弦をつかったりもしました。でも「それならばチェロやバイオリンにやってもらえば良い」といつしか「悟」りました。

弦というものは、押さえたときに、長い方が良く響きます。ポジションの低い方が良い音がするのです。当たり前です。「無理な、不可能な演奏でギリギリの感情・思いを表す」という美学もあるでしょうが、もはや私の役目ではない。(ますます)

倍音に関してはステファノ・スコダニビオさん、マーク・ドレッサーさんの詳細な研究・演奏があり、いろいろな道具や電気効果を使う若い奏者もどんどんでてきています。私もかつて2つのバッグに小物を詰め込んで意気揚々とやっていました。どうもこの形が邪魔をしている、そうだ、自分の思うような演奏が可能な楽器を作ってしまおうか、とさえ思いました。

しかし、それは歴史も伝統も無視した若い考えであることはすぐに分かりました。この形になるまで何年もかかり何万人もが関わった最終的な形なのです。

ブラジルの名アレンジャー・チェリストのジャック・モレレンバウムさんは、ギターとドラムスとのトリオでは低音弦を1本加えた五弦のチェロを弾いていました。音域的にはこれでコントラバスと変わらないわけです。彼の仕事現場は優秀なエンジニアと機器が揃っているでしょうから、さまざまなイコライジングなどでの音作りが可能でしょう。

最近はウクレレベースというのも出ていますね。

さまざまな経験をへて今、私がやりたいのは、聴衆の一人一人の顔が分かるようなスペースで、生音で演奏することでしょう。聴衆に平等にお聴きいただくためにPA(SR)を使う事なく、聞こえにくかったら、耳をそばだてていただきます。

なぜ、あんなに大きくて重いものを運ぶのか?車だと呑めないし、駐車場は高い。

理由はただ1つ。音質なのです。倍音なのです。雑音なのです。

コントラバスとの共演に適した楽器はなに?

ドラムスは大変難しい。ほとんど非クラシック音楽の「制度」となっています。雑音に関してはコントラバスの比ではないほど考えぬかれています。中心に使うスネアドラム。スネアとは響き線。わざと雑音を出すように考案されたものが中心。ヨーロッパでかつてスネアドラム禁止があった、とミッシェルドネダが言っていました。人の心を煽るという理由だとか。雑音は人の心を煽るのです。小さな音で演奏するためのブラシも、雑音成分を増すことになっており、シンバルのシズルは雑音成分を持続させるためにあります。

普通のドラマーはなかなかコントラバスの倍音を吸っていることに気づいてくれません。(ロジャー・ターナー、山本達久さんなどはできます!)レ・クアン・ニンさんは、スティックで叩くということを止めたパーカッショニストです。そのかわり松脂をつかい、擦る、撫でることを主としました。そこで彼は打撃音は失いましたが、音程を手に入れ新たなパーカッションの世界をつくっているのです。

チェロやヴィオラ、バイオリンは相性が良いです。(特にヴィオラ)

その場合、自然に伴奏に回ってしまいます。その方が「機能」するのです。その方が良いのです。

十七絃が伴奏に回ると箏が映えてくるのと同じでしょう。しかし、そこを敢えてソロ楽器として演奏するには不向きかもしれないわけです。

上手なピアノで上手に伴奏してもらうと気持ちが良いです。難しい音程も即座に訂正する(ごまかす?)ことができます。しかしピアノもちょっと難しい共演楽器なのです。コントラバスのソリストとして重要な役をしたゲイリー・カーさんは、ピアノの伴奏をそれまで常識的だった位置から変えました。グランドピアノのへっこみのところでコンバスが演奏するのではなく、ピアニストの背中にあたる位置にしたのです。そう、ピアノの豊かな倍音にコントラバスの倍音が吸われてしまわないようにしました。ピアノの低音弦は形状も長さもコントラバスの弦に似ているので当然倍音も似てしまう。

結局、コントラバスの共演に適した楽器は「コントラバス」あるいは無音なのです。

私の録音をふり返ってみると2作目「彩天」バール・フィリップスさんを筆頭に井野信義さん、飯田雅春さん、伊藤啓太さん、吉野弘志さん、瀬尾高志さん、田嶋真佐雄さん、田辺和弘さん、セバスチャン・グラムスさん、パール・アレキサンダーさんなどなど書き切れないほど大勢いらっしゃいます。(最近は減ってきたのかな~とも感じたり。)

若いコントラバス奏者には、是非、リーダー楽団を作って欲しい。できれば作曲もして欲しい。

コントラバスが変われば音楽は変わります。(使い勝手の良い)サイドマンも大事な仕事だし、お金を運んできてくれます。しかし将来歳を取っても、身体がきかなくなっても(若い才能豊かな使い勝手の良いベーシストはいつでもどんどん出てくるでしょう)自分の主導する音楽を演奏し続けることが大事です。ベーシスト地位向上委員会!(べー向委)

楽器別でみると、大きく身体を壊すのはチェロとコントラバスが多いそうです。主な理由は身体の左右のバランスが極端に悪い。対照的にピアニストは左右のバランスがとれた演奏スタイルですので、80~90歳になってもちゃんと弾ける人が多いです。あの屈強に見えた闘志ミンガスの享年56歳!

残りの時間でコントラバスに貢献できることは何かを考えて、弾けなくなるまでに、録音や教本を残そうかと思っています。でっきるっかな~?間に合うかな~?