泰子さんと歌の会

 

四万六千日、お暑い盛りでございます。と桂文楽師匠「船徳」の口調が脳内を往来します。浅草に住む泰子さんがこの日もホオズキをお土産にリハーサルに来てくれました。ホオズキ提灯をかすかな道案内に詩と歌の森を彷徨いました。

たいがいの歌手はきっと辞めたくなるようなメンドクサイ歌・歌いにくい歌ばかり12曲。しかも伴奏はコントラバス1本、しかも、現在のわたしは左手小指・人差し指が力が入らず、曲がりません。

コントラバス1本で歌の伴奏をするときは、同時に2つ以上の音を出して(ギリギリまで簡略化したギターのように)演奏する奏法によりなんとかなると思ってやってきました。その最低限のことさえできず、ほとんど単音。

生ガットの低音弦では音程感が曖昧になってしまうので、少しでもクリアになるように下の2本をオブリガートというシンセティックな弦に張り替えての演奏になりました。

それでもいいのだ、という気持ちのわたし。「これだけはゆずれない」なんてことはないのです。そして「だってしようがないじゃない?」とも言いません。

さぞや、を越えて、ハッキリ泰子さんは大変な苦労をなさって、しかも、全曲やり抜きました!!!エライエライ。スゴイスゴイ!

合羽橋あたりは、都心に比べて、すこしは空気が通り抜けます。ありがたい。北海道から、宇都宮から、このクソ暑い中、大勢の聴衆が集まってくださいました。詩人の一人は近隣に宿を取って期待最上級。四半世紀会っていなかった演出家・女優夫妻、俳優、映画、美術関係などなど、滅多に会わない人もたくさん詰めかけてきてくれました。

こういう風に人が集まると「まるで○式のようだ」と言い、いつも怒られます。私といたしましても来週から新たな化学療法が始まるので、一期一会感は増します。

手の握力の持続時間を考えるのことなく、冷えピタ着用したままリハーサルもきっちりやって、なんくるないさ~と、普通どおりに演奏開始、非日常(ハレ)の時間が、終わりが来ないかのように過ぎていきます。最後の方では小指も人差し指も使っていました。私が、私の身体が、演奏しているのではないのだな~ということを実感。

詩を音にして、聴いてくれている人と共有する、ということを活用して聴衆参加型の方法もいくつかトライしてみました。詩の繰り返しのひとかたまりを声に出す、雫の音を手元にあるものでやってもらう、一音だけ声を合わせるなどなどです。何と言っても最大級に理解溢れる超優秀な聴衆ですので、「よしよしわかったよ」と進んで「サクラ」になってくれます。1人1人がそれぞれの役を演じる、それが社会。ありがたいな~。消え入るような雫の空間は素晴らしかった!

一つ一つの言葉がこんなに活き活きとしています。ウソ・いつわり・慇懃無礼・ご飯論法・東大話法などなどでヒドい目に遭っている言葉達が今夜はこんなに溌剌としています。言霊も上着を脱いで踊り出す。

きびしく選ばれ 純度を上げ 詩をなった言葉をひしひしと感じます。正確を期すために、詩人に単語の「読み」をいくつか問い合わせしました。「なんだったかな~」「どうでもいいですよ」とかの返答に一瞬驚きました。

が、言葉も音と同様、その詩人・音楽家の身体を通ってでてきたのでしょう。その人の所有物ではなく、その人を越えて、ある時は先導し、ある時は補い、ある時は戸惑わせ、騙し、ある時は走り去る。チェ タンゴ チェ。

充実感いっぱいで帰途につきました。なんとか次回(9月15日)も実現したいです。1つずつ1つずつ、ゆっくり、ゆっくり、しっかり、しっかり。病も健康の内。

ことばを使わせていただいた 渡辺洋さん 三角みづ紀さん 薦田愛さん 野村喜和夫さん 寶玉義彦さん 木村裕さん 市川洋子さん 

歌って 語って 演じてくださった松本泰子さん

場所を使わせていただいた なってるハウス

たいへん暑い中 聴きに来てくださった皆さま

ありがとうございました!

明日早朝から新たな治療に向かいます☆

8/3 なってるハウス 曲目

松本泰子 歌

齋藤徹 作曲 コントラバス

1:ふりかえるまなざし(渡辺洋)

2:患う(三角みづ紀)

3:ひが、そして、はぐ(薦田愛)

4:遠いあなた(寶玉義彦)

5:雫の音(木村裕)

6:防柵11 アヒダヘダツ(野村喜和夫)

1:はじまりのとき(市川洋子)

2:青嵐の家(寶玉義彦)

3:デュオニュソース(木村裕)

4:てぃきら、うぃきら、ふぃきら、ゆきら、りきら、ら(薦田愛)

5:防柵7 沈めよ顔を(野村喜和夫)

6:Pilgrimage(三角みづ紀)