17日に喜多直毅さんとの即興デュオがあります。直毅さんは皆さんご存知の通り天才的な演奏家です。幼少より訓練を受けて順調に世に認められてきました。しかし胸に抱えるものの巨大さゆえか、どこにも収まりきらない、もてあましてしまう感覚、どこへ行ってもよそ者感(クセニティス)を持って来たのでしょう。
そんな彼が即興演奏に大きな興味と期待をもつことは自然な流れのように思います。人の心の底を、本人の分からなかった自分さえ露わにする即興演奏にはいろいろな落し穴・罠があります。幼い頃から演奏し、技術的に優秀で順調な演奏生活をしてきた人には特に要注意かもしれません。「即興」はなんでも可能、なんでも自由なものではないことは現場にいればすぐに分かることです。
かく言う私も30年前は、即興演奏の情報のたいへん少ない中、ヨーロッパの有名インプロバイザーのLP!CDを追い求めたり、崇めたり、憧れたりしていました。バール・フィリップスさん来日の折、道を歩きながら「私もしっかり練習して経験をつんでバールさん達に追いつくようにしていきたいです」と素直に言った時「テツ、何言っているんだ、インプロではいつも同格なんだよ」と強く諭してくれたのを昨日のように思い出します。
直毅さんも即興を始めたころ、尖った演奏をもっぱら目指していたこともありましたが、経験を重ねる度により自然な演奏になってきました。その中でも、ロジャー・ターナーさんとの初共演@公園通りクラシックス、デュオ@パリ聖メリ教会の時は、隣で弾いていてビックリするほどの跳躍を遂げていました。私の一歩も二歩も先を行っていました。それは悔しいのではなくとても嬉しかった。(ちょっと悔しかった?)
教会という場所も良かったのでしょう。彼はキリスト者ですし、エンターテインとしての音楽というよりは捧げ物としての音楽が馴染む場所です。
あっちに行きかけた私ですが、ささやかながらインプロ、ダンス、韓国伝統音楽、能楽、美術、ハンディキャップ、ブラジルなどが直毅さんに伝わっているようなので、少しく荷が軽くなったように嬉しい気持ちです。
出演:齋藤徹(コントラバス)喜多直毅(ヴァイオリン)
内容:即興演奏
日時:2018年3月17日(土)14:00開場/14:30開演
会場:日本基督教団 板橋大山教会
東京都板橋区氷川町47-3
交通:都営三田線「板橋区役所前」駅下車徒歩5分
東武東上線「大山」駅下車徒歩8分
駐輪場の前の坂を上がる。
料金:予約¥3,000/当日¥3,500
ご予約・お問い合わせ:violin@nkita.net
※お申し込みの際は《代表者氏名》《人数》《連絡先電話番号》を必ずお書き下さい。葬儀などによる公演中止の際はご連絡させて頂きます。
※会場ではご予約・お問い合わせの受付は致しておりません。
《ご注意》
・食べ物やアルコール類のお持ち込みはご遠慮下さい。
・お飲み物(ソフトドリンク)の持ち込みをなさる場合、ゴミは必ずお持ち帰り下さい。
・会場に駐車場はございません。
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即興演奏をする、聴くに当たってのヒント:
即興演奏に「良い」即興と「悪い」即興の違いはある?
それは、「即興」の定義によります。「即興」の対義語が「常識」や「自分自身」と考えると、良い悪いははっきり分かります。自分の技巧・情報・経験・受ける受けない・効果・新しさなどにとらわれているのは「悪い即興」になります。
技巧的にありきたりでも「その場で生まれてきた」感じを与えるものは、作曲されたものを演奏したとしても「良い即興」なのです。そう考えると、最先端の即興とか、最前衛の即興とかは形容矛盾になります。私はそのように考えたい。
ハリー・スパルナイさん(最近亡くなったバスクラリネット奏者)は、エリック・ドルフィのゴッド・ブレス・ザ・チャイルドをそのまま演奏したり、ブライアン・ファーニホーを演奏したりしています。譜面が真っ黒に見えるほど細かく書き込むファーニホーさんに、雰囲気と乗りを重視した演奏となるべく譜面通りの演奏を聴かせると、前者を評価したそうです。ユン・イサンさんは「まるで即興のように聞こえるような作曲」をひとつの理想としていたと聞きます。ある作曲家は、必ずしも譜面通りでない部分もあった沢井一恵さんの初演を聴いて「参りました。それが私が書きたかった曲です。」と言ったとか。