ウルトラマリンとナカタニ弓

 

ウルトラマリンとナカタニ弓

ワークショップでの小林裕児さんのお話に「ラピスラズリとウルトラマリン」がでてきました。フェルメールの使っていた青は、たいへん高価な宝石を技術を駆使して砕いて作った絵の具、ラピスラズリ。それを科学的に模倣したのがウルトラマリン。そして、濁っていないウルトラマリンの素晴らしさをおっしゃっていました。

「昔はなんでも濃かった、だんだん薄くなってきてしまった」派の人達ならば「そうはいってもラピスラズリの味はでないよ」と言うのでしょうが、ウルトラマリンが良い、と言い切ることに注目したい。

日本の神社仏閣でも古くなり渋くなりそれ故にその価値が増すような認識がありますが、建立当時は極彩色の派手なものでした。それが朽ちていき色が薄れて「ありがたく」なっていった。その過程と「わび・さび」の美学が混同された。お経にしてもギンギンギラギラなものが多い。

さて、さて、私にとっての同種の「革命」がありました。アメリカ在住のパーカッション奏者中谷達也(Tatsuya Nakatani)さんはとても優れた方で、なんでも作ります。寝泊まり・生活できるようにバンを改造し、ゴング、打楽器類を積んで長期間のツアーに出ます。ミッシェル・ドネダも影響されて一時期自分のバンで旅をしていましたね。

私の現在最新CD の「6 trios improvisations with TETSU& NAOKI」でも1曲ご一緒しています。

彼が日本に来た際、一晩拙宅に泊まり、よもやま話しをしました。旅人(まれびと)の話は昔から求められました。視点がちがうのでとても面白い。私は此所でこんなことしてて良いのか、とさえ思いました。その彼が出発間際に、「テツさんの弓は面白い形をしてますね、採寸していいですか?」と言ってきて、もちろんOKしました。

私の弓の形に注目するとは、なかなかの人です。普通の弓と微妙に違っているのです。そして、つい2週間前「テツモデル」を創作して送ってきました。

打楽器とくにシンバルやゴング類を弓で弾く(持続音をだす)奏法は現代音楽や即興音楽でしばしば使われて来ています。その際、コントラバスの弓を使う事が多い。グリップの容易さや、丈夫さ、安価なものもある、ということでしょう。打楽器を弓で弾く場合、馬の尻尾はばらばらと切れやすい。そのためにテグスを使って打楽器用に作ったのが始まりかと推測します。ところがコントラバスの演奏にも使えること、意外な盲点を露わにしてしまいました。「ゴリゴリと無茶に弾くときに有効」とセバスチャン・グラムスも言っていました。マーク・ドレッサーは複数所有していると聞きます。

病気前の私でしたら、どうもありがとう、と返事をしただけだったかもしれません。本気で演奏することは想定さえしていなかったでしょう。

現在、今の身体に合う奏法をいろいろと四苦八苦、試行錯誤しながら工夫していた所でしたので、使ってみたのです。筋力の衰え、腕の重さの減少、足元ふらつき、手の滑りに対応しなければなりません。

実際に、弾き方から松脂までどんどんと変わって行きつつあります。自分で呆れるほどです。40年掛かってやっと辿りついた奏法・松脂・弦までが「決定」ではなかった!のです。Just Accept.

さて、ナカタニ弓です。なんとなんと、発音は一番早く、操作性も抜群、いままで弾けなかった曲の部分が弾けるのです。例えばバッハ六番。

「困ってしまいました」。なにせ、私の現在の2本の弓に辿りつくまでに、20年以上探し続け、大変高価な値段をやっとの思いで借り集めて、到達したものでした。ヨーロッパのロマ(ジプシー)経由で1本ずつ手に入れ、最後の1本は友人や娘にさえ借金をして手に入れたのです。

もう一生これで「決まり」だった(はずな)のです。その対価や時間を考えるとこれ以上のものがでてもらっては「困る」というか、人生の尺度が変わってしまう。

ところが、あっさり、変わってしまいました。何十分の一の値段で、この音がでるのです。しかも毛の部分は馬の尻尾ではなくテグスなのです。馬の尻尾はカナダが良いとか、いや、愛媛が良いよとか、モンゴルはちょっとね、この季節が良い、とかなんだかんだ言っていたのに、おそらく一生切れることの無い超安価なテグスなのです。釣り糸です。

名弓とよばれるものは、豊かな艶やかな音がします。ところが、それは高域(倍音含む)が出てない場合が多いのです。超高域がないほうがなにか穏やかな豊かな艶やかな音のような雰囲気があったりするのです。

それはちょうど極彩色のお寺・お経が時を経て渋くなっているのと似ています。それにはそれの価値があるのでしょうが。

さて、あまり浮かれて大騒ぎをしてもイケマセン。いろいろな場所で、いろいろな音楽を、いろいろな状況で演奏して、運んで、経年変化・耐久性、さらなる改良点などをモニタリングして中谷さんにおつたえしつつ、さらに革命参加を続行しようと思います。広島やエアジンのバッハはこれで行きます!

http://tatsuyanakatani.com/Kobo%20Bows%202.html