選曲していると・・・その5

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7月8日ソロリサイタル用選曲していると・・・その5

さてバッハです。

残念ながら、もともとコントラバスの教則本にはすぐれたものがありません。私が学習を始めたころはSimandlという本しかなく、全員がこの教則本をやっていました。(今は、ペトラッキやシュトライヒャーもラバトもありますね。それらにしてもやっていて楽しくはないのです。)そして、この教材に使われている課題音楽の音楽性が異常に低いのです。つまらない音楽・メロディなのです。それを根性入れて何回も何回も弾いていたらやる方の音楽性さえ低くなってしまいます。耳の中にツマラナイ音楽が棲み着いてしまうのです。それはあなたをその低レベルまで引っ張り続けるのです。

そうなのです。一旦自分を通して出ていった音(一度弾いた音)は、必ず、自分に影響を与えるのです。ならば、少しでも音楽性の高いものを弾かねばなりません。本当に注意しなければならないのです。人間の耳・聴覚はそれほどしっかりしていません。聴いた音に、弾いた音にもの凄く影響されるのです。

そこで思いつくのがバッハの無伴奏チェロ組曲です。音楽性が高く、バラエティに富んでいて、むずかしく、やりがいに溢れています。そんなこんな理由でこの曲集を選んでいますし、生徒さんが来ると必ず推薦します。

バッハの音楽は感情の吐露ではなく、理知的で、数学的で、しかも音楽性が高い。朝起きてバッハを聴くことが多いです。それは、睡眠中や夜の支配のもと、カオスとなり、秩序も価値基準もなくなってしまった頭を日常生活がなんとかできるレベルにまで整理してくれます。

無伴奏チェロでは、アネル・ビルスマとニコラウス・アーノンクールの演奏が好きです。無伴奏バイオリンでは、カール・ズスケとギドン・クレーメルが好き。ズスケは淡々を弾き、クレーメルは感情を揺さぶります。あそこまで演奏できればそれも許されます。クレーメルのバッハDVDのインタビューで彼がリファレンスとしているのがグレン・グールドとジャック・ブレルだと言っていることに納得させられます。

そして私がやる方法はコントラバスの音域に適した転調をするのです。バッハの時代は特に調性それ自体に意味があると聞いていますが、この際、それは無視しましょう。コントラバスの低音域が活きる調性で弾きたいのです。弦楽器は鳴っている弦の長さが長ければ長いほど倍音の豊かな「良い」音がでるのです。ヒーヒー、キーキー言わせながら高音域・超高音域を弾いたって仕方ないのです。

コントラバスでバッハ無伴奏チェロ組曲を録音する名手たちは、チェロと同じ調性・音域で演奏する人ばかりです。しかしそれではチェロで演奏した方が良いに決まっています。弦の長さ・それに伴うノイズ成分がなかったらコントラバスで演奏する意味がなくなります。

世の中のコントラバス界(特にクラシック系)はチェロに近づけ!バイオリンに近づけ!路線です。そのために細い金属弦で、しかも、より細いソロ弦を張り、ソロチューニングと言って高めにチューニングする人が多いのです。この頃の流行は、低い椅子に腰掛けて、ネックを左肩に完全に乗せて、左手の親指を常に使う方法です。この方法だとよりテクニカルに、チェロのように、バイオリンのように、弾くことが出来ます。

しかし、私は反対です。あくまで低域を活かした演奏をしたいのです。この3月にエアジンで全曲を演奏する機会を得ました。その時に私が取った方法は四弦すべてを生ガット弦にする、コントラバスに適した調性にする、ピッチカートも大いに使う、でした。今回は今のところ、E弦は金属巻きにする予定です。もともとE弦の生ガットは存在していませんでした。(コントラバスは3弦だけだった!のです。)

エアジンでエッチラオッチラ・ヨタヨタと演奏を続け、へとへとになって第六番に辿りついた時に、私はピッチカートで乗り乗りの方法を取りました。この12拍子が韓国の伝統音楽のクッコリの12拍子に聞こえてきたのです。普通の奏法ではどんどん高域になっていく部分をどんどん低域に行く方法を取りました。痛快でした。歓びでした。もう無理と思ったときも諦めずに進んだお蔭でご褒美の時間を頂いた気がしました。

おそらく(かどうか、知りません)バッハさんは、否定しないよ、かえって歓んでくれるはずさ、と思っています。

そんなこんなで、低域を多用できる2番をホ短調で、6番はうんと低く、5番のプレリュードはト短調でやろうと思っています。

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