選曲していると;その3 タンゴ・韓国シャーマン音楽
彷徨い続ける私の音楽は、ジャズにもフリージャズにもロックにもフォークにもクラシックにも安住の地を見つけることは出来ませんでした。時あたかも「叫ぶこと」が出来なくなっていました。叫ぶことが出来た時代は幸せです。ジャンルを信じることが出来た時代も幸せです。私はあらかじめ乗り遅れていました。肩を組み、大声でシュプレヒコールを叫んで(発散して)いた学生運動、世界中で同時発生していました。しかし時はすでに陰湿な内ゲバへと変容、誰を何を信じて良いのか、確信が全く持てぬままたった一人で判断しなければ成らなくなっていました。もちろん、世の中の好景気(バブル)でごまかすほどの恩恵もありません。
破壊せよ!たたきつぶせ!に呼応する叫びの音楽、私は一切持ち合わせていませんでした。アイラーは決して破壊せよ(中上健次)とは言っていないよ!と私には感じられました。私が既成のものに反発するのは、破壊衝動ではなく、そんなもんじゃないだろう?もっともっと良いものがあるはずだろう?という建設的?なものから発生している気がしています。カタチになる直前の可能性を視たい、聴きたい、感じたい。
鶴見和子教授の薦めでの大学院行き(アカデミズムに留まること)には(もったいなくも)見向きもせずに、下手くそなコントラバスを相棒に選んでいました。あのころの自信はどこから来ているのか、本当に分かりません。罪な神様です。
私はどこから来てどこへ行くのか、自分の出自を確かめるように始まった私の音楽の旅は当然真っ直ぐには進みません。世の中の応援もなく、孤独な旅でしか有り得ない状況でした。「騒」の応援もありがたかったけれど閉店。高柳・富樫さんとの体験は今思えば思うほど、本当に貴重でしたが、お二人とも病後・事故後の事でもあり、あの輝かしい時代とは一線を画していましたし、私の中の「ジャズ」は余りにも希薄でした。(反比例するように膨大な量を聴取していましたが、如何ともしがたい)
そんな時、2つの偶然がありました。韓国行きとブエノスアイレス行きです。これらは降って湧いたような依頼によるものでした。しかし、渇望続きの私のココロは貪るようにこの2つの音楽にのめり込み、歓んで溺れました。偶然来た仕事も「自分の」仕事にしてしまうのです。思えば、そうやって来ました。
2つに共通するものはダンスであり、歌であり、強烈な動機・存在理由でした。頭で考えているオンガクとは全く位相の違う在り方、そこにこそ強く惹かれました。もちろん、韓国シャーマンに成ることが出来るわけで無く、ポルテーニョに成ることができるわけでもありません。もの真似では済まされないことは先刻承知、合点承知しております。そこからの苦闘も同時に始まるわけです。
方や、オスワルド・プグリエーセさんとの共演!方や、東海岸巫族のドン金石出との出会い・共演でした。地球の対蹠点(Antipodes)に存在していた強烈な個性でありオンガクでした。のめり込まないはずはありません。渇望がなせる奇蹟か、単なる偶然か、タンゴ、韓国シャーマン音楽ともに、まるで自分の音楽のように「初めから弾けた」のです。「なんで君はこれができるのだ?」と両者から驚かれました。出来る自分を誇らしく思うのではなく、これが出来ないとこの先、生きていけないよ、くらいに切羽詰まっていたのかも知れません。火事場の窮鼠猫を噛んだのでしょうか。
そんなこんなで、タンゴと韓国シャーマン音楽からも、本リサイタルで取り上げないわけには行きません。プグリエーセと共に大きな大きな影響を受けたアストル・ピアソラ(コントラバヘアンドとかエスクアロとかタンゴエチュードからか?)、金石出さんに習った長短(チャンダン)を使った音楽(クッコリを使ったストーンアウト、オンモリなどかな?)をやりましょう。今、どう弾けるか?自分でも興味津々です。
============================
齋藤徹の世界〜還暦記念コントラバスソロコンサート〜
■日時:2016年7月8日(金)
19:00開場 19:30開演
■会場:永福町 ソノリウム
http://www.sonorium.jp/
東京都杉並区和泉3-53-16
京王井の頭線 永福町駅下車(北口) 徒歩7分
東京メトロ丸ノ内分岐線 方南町駅下車 徒歩10分
■料金:予約¥4000/当日¥4500
■ご予約:ご予約フォーム http://travessiart.com/kanreki1027/
03-5776-4922(音楽事務所アーテム)平日11:00~13:00
■演奏曲目:オリジナル、即興演奏、チェロ無伴奏組曲(J.S.Bach)など