失われた「ンラス」を求めて

ジャッキー ヒツジ 高円寺 ユージー キッド2-11 螺鈿

 

試しに「ンラス」をコンピューター内検索したら、徹の部屋vol.5 ゲスト野村喜和夫(詩人)のために書いた寓話を発見しました。この年に始まった「徹の部屋」の4回をふり返って寓話仕立てにしたのだと思います。

当時はブログもFBもやっていませんでした。

ポレポレ坐での「徹の部屋」次回は、8月20日ゲスト:久田舜一郎(小鼓);Isabelle Duthoit (ヴォイス・クラリネット)です。第40回になります〜。歴史です。(大げさ)

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キワーオとテッチーの 失われた「ンラス」を求めて。

失われた「ンラス」を求めて詩人キワーオと楽人テッチーが旅に出ることになりました。あてのない旅。二人は義務感に燃えたふりをしています。ちょっと気恥ずかしかったようです。だって「ンラス」が食べ物か、生き物か、鉱物か、神様か、感情か、お祭りなのかさえも知らなかったのですから。

「ン」から始まるものはきっとアフリカだよ、バオバブの写真の前でポレポレーゼが言っていたので、きっとそうだ、そうに違いない、そうじゃないハズがないと、アフリカに行きました。カサブランカでスーフィーの踊りを観ているうちに目が回ってしまい、あっという間に150年経ってしまいました。何しに来たのかも忘れちゃった。

海岸でボーッとしていたら、早朝、ウミガメのジャッキーが卵を産みに来ました。何万年も生きている彼女なら、我々が何をしに来たのかきっと答えてくれると思い、相談しました。「わたし、わからないよ、でも、いまから『ふるさと』を探す旅に出るから、何なら背中へ乗ってもいいよ」「ぜひぜひ、お願いします」。てっきり海を泳ぐと思っていたら、二人を乗せたジャッキーは青い羽根を全身にまとい、世にも美しい鳥に変身して、グイッと空を飛びました。

キワーオとテッチーは楽しくて、またはしゃいでいます。この二人はすぐに遊んじゃうんですね。経験を学習できないタイプの遊民なのでしょう。あーあ、それ見たことか、はしゃぎすぎて落っこっちゃいました。フワッとした柔らかいものの上だったので怪我はしていません。何だろう?それは三匹のヒツジの背中でした。ヒツジ達は両足に1本づつ弓を縛り付け、一心不乱に弦を擦っていました。調子っぱずれの音ばっかりで、最初は「何てヘタなんだ。しようがないな~。早く止めればいいのに!」と思っていたのですが、気がつくと思いの外、良い感じで、思わず引き込まれてしまいました。目をつむって聴いていると、蜃気楼にさらわれ、フワーッと右上方へ空中浮遊してしまいました。

すると、四匹の竜が絡み合いながらすっごいスピードでグニュングニュンとやってきました。鱗が螺鈿細工のようにキラキラ光っています。よく見ると、アルゼンチンタンゴや韓国のシャーマン音楽を楽しそうに歌ったり踊ったりしているのです。楽しそうだな~、でもまぶしすぎる~、と目をつぶった瞬間、その中に吸い込まれてしまいました。すると四匹の竜は、急に方向を変え、天を目指してスーーーーーっと昇っていくではありませんか。

なすがままのキワーオとテッチーは、ヒャーーーー最新式ジェットコースターみたいだ、いやその百倍すんごいよ、なんてったって、上に向かって落っこちているんだから。またのんきに楽しんでいます。天に着くと、農業の神・ミーンが木の根っこを引っこ抜いていました。茶畑にするんだ、ちょっと手伝ってよ、というので手伝っている内に「こういう、地に足の付いた生活こそ、我々には必要なのだ。本物の詩や音楽は、こういうところから生まれるのだ。そうだ、ここで暮らそう。」と殊勝に思いました。その上、ミーンのお布団ダンスはとても素敵だったので、それを習いたかったこともあります。旅の途中で出会った三匹のヒツジや四匹の竜も高円寺での宴会には来て騒ぎました。そうこうしていると250年ほど過ぎました。(何年経ってもミーンのようには踊れませんでしたが。)

ある朝、大きな宅急便が届きました。送り主は画家のユージーさん。中身は巨大な木をくりぬいた、朱色と水色と金色と肌色のそれはそれはきれいなボートでした。「このボートに乗ってください、きっと『ンラス』がみつかりますよ。」と手紙に書いてあります。「あ、そうだ、私たちは『ンラス』を探しに来たのだった。」と思い至ったのか、すっかり忘れているのに、思い出した「ふり」をしたのか、すぐにボートに乗りこみました。ロバの花嫁が先客です。ボートをよく見ると「minamihe」と暗号らしきものも見つかりました。

長い長い船旅です。寒帯から熱帯へ潮が変わる頃、キワーオは「風の配分」に心を奪われ、詩を書き始めました。すごい勢いです。ボートはコトバ・コトバ・コトバ・コトバであふれかえりました。居場所もままならなくなったテッチーは船底に移動、そこに一本ぶっといガット弦が張ってあるのを見つけました。それを叩いたり、擦ったり、はじいたりすると面白い音がでます。そしてその揺り返しの音がンラス・ンラス・ンラス・ンラスと聞こえてきました。それが面白くて面白くて、テッチーは夢中でンラスを出して悦に入っています。

ボートの上も下も右も左も前も後ろも、斜め上も斜め下も、斜め右も斜め左も、斜め前も斜め後ろも、「コトバ」と「ンラス」でぎゅうぎゅう詰めになりました。ふと気を抜くと、「コトバ」と「ンラス」が混ざり始めました。コトバ・ンラス、コトバコトバ・ンラスンラス、コストンラバ、ストラコバン、ラバスコトン、ストコランバ、トラスンコバ、コバストラン、最後に、1つおきに合体して、コントラバスが生まれましたとさ・・・・・・うそ。

注釈:
       
 
ウミガメ~青い鳥:第1回徹の部屋、
南アフリカのダンサー ジャッキー・ジョブが「going home」と題して、自らの記憶の「ふるさと」をテーマに踊る。

三匹のヒツジ:第2回徹の部屋
ヒツジ年生まれの三人のベーシストがヒツジのガット弦を使って演奏。ベースを横にして演奏するスタイルを試す。オンバク・ヒタムの流れを確認。

四匹の竜:第3回徹の部屋
螺鈿隊(四人の箏アンサンブル)と、第2回とほぼ同じ演目で演奏

ミーン:オンバク・ヒタム@座高円寺
コントラバストリオ・ヒツジと螺鈿隊に田中泯氏が加わる。第3回の演目を大幅に削ぎ落とす。

画家ユージー:第4回徹の部屋
小林裕児氏のライブペインティングと演奏。小林氏製作のボートにガット弦を張って演奏もした。

詩人キワーオ:第5回徹の部屋
野村喜和夫氏を迎えての今年最終回

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