winter in a vision

10891473_502444496564429_1696448380012609403_n 153

 

喜多直毅さんが「勝負に出た」コンサートが29日オペラシティであります。

私は心より推薦します。

理由はいくらでもあります。

例えばメンバーの素晴らしさ。このメンバーは誰一人、ジャズを通過していません。日本のポピュラー系の音楽世界で自由な音楽、新しい音楽を実施してきたのはずーーっとジャズの経験のある人達でした。四人が四人ともそうではないのです。しかもコードに則ったアドリブも達者にできます。複雑な譜面も読みこなします。ノイジーな音響も出します。演劇的な所作もできます。

これは、大きな大きな変化です。実は、ジャズを生み育てたアメリカ文化が世界的に歴史的に衰退してきていることと無縁ではないのです。ジャック・アタリではないですが、音楽は政治・経済の先を示します。

また、ご本人も、メンバーの多くも有名音楽大学を卒業しています。西欧音楽を専らとする音楽大学をでていることは、かつてならある意味、勲章となり、名誉となり、エリートとして尊敬されたり、仕事が選べたりしました。しかしその時代も去ったのです。毎年何百人も出る音大卒業生に見合った仕事はそうそうありません。西欧文化の衰退ともリンクしているグループなのです。

そして彼らが唯一シェアしている象徴はアストル・ピアソラでしょう。ピアソラがナディア・ブーランジェに習っていた時の有名なエピソードがこのグループにも示唆的です。西洋現代音楽作曲家になりたかったピアソラがタンゴの履歴を隠していたのに対しナディアさんは「それこそあなたの音楽です。それをやりなさい」。

タンゴの根本は大雑把に言うと西洋音楽とアフリカ音楽です。ピアソラの音楽の魅力もそこにあります。「今のあなたにしかできない音楽をやりなさい」という教訓はいつでも生きています。今の東京でも生きているのです。

私が25年前、ピアソラを東京のジャズの現場でやったとき「それ何?現代音楽?」と聞かれました。同時期に私が邦楽器を入れたり、フリージャズでない即興演奏をしたときにもまだ「色物」扱いでした。今は、ピアソラも邦楽を入れたアンサンブルも即興演奏も「市民権」を得ています。

それから四半世紀たって、今、喜多直毅カルテットが具現しているものの現代的重要性は計り知れません。そこまでやっと来たのです。

渋谷の公園通りクラシックで行われていた直毅カルテットの演奏を何回も聴きました。耳をやられ、郊外に引っ越し、都会の喧噪をできるだけ避けたい身としては、ライブを聴きに行くことは大いに苦手なのですが、このライブには通いました。まさに現在の東京での「奇跡」のように思いました。大っ嫌いな渋谷(私の生まれ育った区です)の猥雑で欲ばかり充満したような人混みの中を逃げるようにして、高柳さんの思い出がつまった山手教会地下へ入ると本当に別世界が繰り広げられていたのです。多くの耳の肥えた聴衆が「あっ、私にしか分からないだろう音楽を私のためにやってくれている」と錯覚するであろうLIVEでした。私もそう思いました。

拙宅のトイレに置いてあった(小島さんスミマセン)写真集に激しく反応した直毅さんが自らの生まれた故郷の風景をテーマにしたCDを小島一郎さんの写真で飾りました。自分の生まれも育ちも受けた教育もプロとしての経験も、さらには来たるべき未来もすべてつまったCDであり、作曲であり、演奏なのです。今・ここ・私にできること、いや、今・ここ・私にしかできないことを抽出し総動員しているのです。これ以上のものがありましょうか?まさに「勝負に出た」印象があります。

消費社会の真っ只中で、カネとコネで動いているように見える音楽の世界ですが、不平や文句を言っていたら「負け」です。だって文句を言っている方が「正しい」のですから、言うだけ無駄なのです。

では、どうやって自分と自分の音楽を保つか?

「音楽」が決めてくれるのだ、と思うことです。音楽が本当に必要なものだったら生き残ることができる、と信じるのです。聴衆が少ないと嘆いてもしかた有りません。聴衆も、演奏する場所も、「音楽」が決めてくれるのだ、と思うことにしましょう。(私自身に言っています。ハイ)

直毅さんは勝負しなくとも、音楽が勝負してくれます。ご本人は、あまり気を遣わなくてもいいのです。

今の喜多直毅カルテットの音楽は、内容・勢い・思いすべてがライブハウスの規模ではないのかもしれません。大っきな立派なホールで思い存分暴れてください。

いろいろな意味で、実に示唆的なコンサートなのです。

みなさま、時代の証人になりましょう!

[喜多直毅クアルテット・コンサート 2015 ~幻の冬~]

[ 開催日 ] 2015年1月29日(木)
[ 時 間 ] 19:30開演(19:00開場)
[ 会 場 ] 東京オペラシティ・リサイタルホール(東京・初台)
[ 出 演 ] 喜多直毅(ヴァイオリン)
北村聡(バンドネオン)
三枝伸太郎(ピアノ)
田辺和弘(コントラバス)

[ 料 金 ] 前売り 3,500円 /当日 4,000円
[ 予 約 ] 東京オペラシティチケットセンター : 03-5353-9999
e+(イープラス)
[ 主 催 ] 株式会社ソングエクス・ジャズ/pianohouse.mmg
[ 協 賛 ] shin-ichi tokunaga
[ 総合お問い合わせ ] 株式会社ソングエクス・ジャズ
tel 03-3257-3404 email : info@songxjazz.com

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です