Gravitacion

 

こういうゆったりと時間をかけた仕事の成り立ちが好きです。フラメンコライターのNさんが十数年前の私の演奏を聴いて覚えてくれていて、今回の主役・フラメンコダンサー森田志保さんを誘って何回もポレポレ坐や「いずるば」のライブに通ってくれ、丁寧な正式オファーを受けたのが昨年の夏でした。私はと言えば初ミーティングまで何も知らない状態。そんなもんです。

 1459329_599205646814090_909973564_n 1501748_620950951306226_1116529381_n photo のコピー 1520609_623441277723860_996653751_n-1

フラメンコがロマ・アラブ・イスラム・ユダヤなどのチャンプルーであることはよく認識しています。ヘタに手出ししてはイケナイ領域なのです。危ないのです。

 

タンゴやブラジル音楽が五線譜で表すことの出来る「西洋音楽」であるのに対し、フラメンコは記譜できない「民族音楽」でありつづけています。ロマ出身のトニー・ガトリフ監督は映画作品でその点をずっと強調してきました。私は同意します。

 

峰・高場さんの「ワールドミュージックの館」で俵英三さんをゲストにしてフラメンコの会をポレポレでやった時、私も演奏に誘われました。その点の見識がハッキリしている高場さん・俵さんの意図がキチンと反映され、私はシギリージャやソレアなどのフラメンコ・プーロでは演奏せず、ロルカが採譜したスペイン民謡を基本に参加しました。

 

今回もその流れと同じです。自作のフラメンコ風オリジナル、サエタ(これは、ギル・エヴァンス+マイルス・デビスで昔から引っかかっていた曲)、エストレージャ・モレンテで知られた曲に留めて、フラメンコ独自の世界は今枝ユカさんと志保さんに任せました。それでも私の興味を実現するべく、韓国音楽との近似を試してもみます。またノイズや偶然性・儀式性も取り入れています。それに対しては是非ともフラメンコ側の反響を聞きたいです。

 

フラメンコ・韓国ともに12拍子、それも3×4が基本ですが、韓国のそれが1・4・7・9または10にアクセントが有るのに対し、フラメンコは3・6・9にアクセントがあるのです。ユーラシア大陸の東西の果てで、アクセントの位置が全く違うのです。9のところがミソとも言えます。

 

フラメンコのように1拍目にアクセントを置かない音楽といえば私にとって直ぐ思い浮かぶのがインドネシアガムランです。(佐草夏美さんに誘われ悪戦苦闘中です。) ガムラン(特にジャワ宮廷ガムラン)では4×4の16拍子が多いですが、4・8・12・16にアクセントがあります。これはフラメンコのビートが分からなくなってしまうのと同じ構造で、1拍目よりはビートの切れるところにアクセントがあり、そこへ向かって「落ちて」行く感覚だということ。

 

いずれ近いうちに納得するようになるつもりでいます。その時はまざって演奏したいですね。韓国伝統音楽でもそうでした。

 

さて、2月1日2日のライブは映像のお披露目とライブ演奏の二本立てです。映像はカナリア諸島のランサローテ島で写真家の高木由利子さんによって撮影されました。映像というとスティルが時々効果的に使われているのが普通ですが、この映像は写真家が撮っただけあってスティルが基本で動画が付属的に使われています。なにしろランサローテ島の風景が凄すぎます。廃墟・瓦礫だったり黄色い苔・羊歯が一面に生えていたり、鍾乳洞のような洞窟のコンサート会場だったりです。これらは全く私のボキャブラリーでは伝えられません。

 

私は映像作品の音楽担当となっていますが、実際は編集の市村隼人さんの音楽作品と言えるでしょう。わたしは音源を提供しただけという感じです。市村さんは映像の高木さんに最も信頼されている人なので、私はすべてをゆだねる立場でした。

 

4回の公演で、映像が終わるとライブになります。ここで私的に注目はタイラー・イートンさんのベースです。お馴染み田嶋真佐雄(この元旦にパパになりました)とベーストリオでの演奏になります。タイラーさんはマーク・ドレッサーさんのUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)での生徒でした。昨年、学友の日本人打楽器奏者と結婚して日本で暮らしています。マークさんからも「面倒見て欲しい」とお願いされていました。トラベシア業務の得意分野です。

 

彼は190㎝以上あるでしょう、長身の25歳。子供や自然を愛する純粋な若者です。こういう輝く瞳の日本人は残念ながらあまり見なくなりました。

 

もう一人の大注目は今枝ゆかさん。この日のためにスペインから帰国。何でこの人が日本人なの?と思うほどにフラメンコのディープな所にいる人です。この声にはフラメンコ特有なノイズ成分が満載され、どんな楽器の合奏の中でも声がスーーっと通って行きます。フラメンコの声は遠近法が通じません。新生児を抱えフクシマを考慮して移住したそうです。リハで聴いたそのディープな声には感嘆しました。

 

森田志保さんは、フラメンコダンスで特に注目され各方面で大いに期待されているている方。日本人が今、ここでなぜフラメンコをやるのかという疑問を持ってしまった人です。やっかいなところで引っかかってしまいましたね。でもそういう人が私の同時代者です。

 

だからこそ私などに声がかかったのでしょう。

志保さんとゆかさんが共演すると言うだけでフラメンコ事情通には事件のようです。

 

志保さんは直ぐ先の3月には私でも知っているアントニオ・カレーラスを招聘し日本公演を仕切るそうです。アントニオ・カレーラスといえば私にとってはトニー・ガトリフ監督の「ベンゴ」です。ダメ男を真摯に演じていました。この美学は日本にもありそうです。

 

このところ、私の周辺でフラメンコが現れています。この機会にすこしでも理解を深めたいところです。

 

https://www.facebook.com/gravitacion2014

 

タイラー・イートン ベース奏者・作曲家。2012年来日。アメリカ、カリフォルニア州バイセリア出身、2009年〜2012年カリフォルニア大学サンディエゴ校にてベーシスト・作曲家マーク・ドレッサー氏の指導を受ける。原点であるジャズの世界と同様に、クラシック、現代音楽の演奏も積極的に行い、2011年モントレージャズフェスティバルにChase Morrin トリオのベーシストとして出演、好評を得る。George Lewis、 Gerry Hemingway 、Anthony Davis との共演。打楽器奏者のスティーヴン・シック氏が指揮するラ・ホヤ シンフォニーに副首席コントラバス奏者として所属。メキシコにてOrquestra de Baja Californiaと演奏活動を行う。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です