コントラバスとジャズ

コントラバスとジャズ

 

かつて板橋文夫さんが「ジャズは、アフリカを象徴するドラムスと西洋楽器との戦いの歴史だ」と言っていました。なるほどと思ったものです。コントラバスとドラムスの関係とジャズの歴史も面白いテーマです。

 

ジャズにはコントラバスの威厳が失われる時期がありました。世の中の音楽の音量がどんどん上がって行った頃です。いつも新しい提案をし続けたマイルス・デビスのグループで言うと、ドラムスのアンソニー・ウイリアムスがめざましい溌剌とした演奏をしていた頃です。自然にグループの音楽の大きな要素になっていきました。自然に音量は大きくなります。ベース、ロン・カーターはだんだん居場所が少なくなりアンプと一体化したベースになっていきましたが、マイルスはその後直ぐにエレキベースの時代に入っていきました。

 

ジョン・コルトレーンのグループでは同じように、ドラムスのエルビン・ジョーンズの役割がだんだん大きくなっていき、ジミー・ギャリソンのベースは聞こえなくなり、アンサンブルというよりはベースソロが多くなり、次第にいなくなりました。他のメンバーが休んでいる時にしか充分な演奏ができないなんて哀しいことです。

 

アルバート・アイラーのグループでも同様に、サニー・マレーのドラムスの役割が大きくなり、ゲーリー・ピーコックもだんだん役割が少なくなっていきました。終わりの頃にピーコックさんはアルコの可能性を試していました。この「アイラートリオでのピーコックがジャズベースの1つの頂点だろう」と高柳昌行さんが言っていました。なるほど、なるほど。ビル・エバンストリオのスコット・ラファロもオーネット・コールマンとのセッションではアルコを使ったトライをしていましたが事故死。セシル・テーラートリオ、山下洋輔トリオもベースはいません。

 

少し古い時代の話では、エリントンにはその名も「マスターピース」という傑作があります。膨大なレコーディングの中でもひときわスバラシイものです。これは、世の中がSPレコードからLPレコードになる時で、はじめて長い曲を録音できるということで長めの四曲でできています。精緻なハーモニー(ヨーロッパの印象派やストラビンスキーのハーモニー)と目の覚めるような卓越したソロ、名曲揃い、まさしく傑作です。しかし、この4曲ともドラムスがとても控えめなのです。リズムはほとんどベースが支えています。この時のドラムスはソニー・グレアさんで、エリントンの所謂「ジャングルサウンド」を共に作り上げた大功労者。しかもこの録音を最後に楽団を去ります。これも象徴的なことのように感じます。

 

もっと古い話だと、1928年のルイ・アームストロングの録音も大傑作ですが、この録音の時に初めてドラムスが入ったそうです。それ以前はドラムスの録音ができなかったとのこと。チューバに変わってコントラバスが参加し始めた頃です。故ペーター・コバルトはもともとチューバ奏者でした。彼がバール・フィリップスに出会って、コントラバスに興味を持ち、転向することになったと言います。

 

ジャズ雑誌を飾るトップミュージシャンでなくても渋いシンバルレガートと一体となった4ビートウオーキングベースには絶対の美がありました。時代の時間感覚を見事に表していたのでしょう。ミンガス、ペティフォード、ブラントン、チェンバース数多の名ベーシストは今でも新鮮です。そのミンガスにしても「ミンガスムーブス」「チェンジーズ1.2」あたりからガット弦からスティール弦に換えてアンプも使用するようになりました。

 

 

70年代、ジャズが電化していき、コントラバスもピックアップとアンプでブーストした響きになっていきます。その中で、ロック的な音響へ向かう方向、民族音楽的な憧れへ行く方向、エンターテイメントへ行く方向、そしてフリージャズの方向などなどがありました。一方、フリージャズと一線を画したヨーロッパのジャズシーンは次第にジャズとインプロビゼーションが分かれ、インプロシーンではアコースティック路線に進んでいきました。コントラバスもアンプを使う事を止め、生のままで合奏するような形態になっていきました。リズム隊とソロという役割分担が無くなっていったことと無関係では無いでしょう。

 

そういう歴史の果てに私たちもいるわけです。昨日のアケタでの弦311の演奏は「ジャズ系」のアケタではなじまないものだったかも知れません。しかし明田川さんも最後まで聴いてくれました。休憩時間、田辺和弘さんとの会話「ピアニッシモとフォルテッシモはある意味同じものだよね。フォルテッシモの所であえてピアニッシモを弾いてもほとんど成り立つもんね。音量の記号ではなく、表情記号なんだよな。」自分の信じる音を出し続けよう、いや、信じる音なんて持っている訳では無いので、信じるに足る音を探してやり続ける、そんな風に思います。

 

そして10月27日、デキシーランドジャズからインプロの50年のキャリアをもつバール・フィリップスさんと弦311とのセッションがあります。こういう視点で聴くとなおさら面白いでしょう。バールさんはフレンチ弓からジャーマン弓に換え、ガット弦からスティール弦に換え、ベッタリした松脂を使っています。その方向は弦311とは真逆。これもまた面白いな~。

 

 

 

 

 

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