「Strings & the moon」評

 

Kadima社からでた「Srings & the moon」DVD CD ARTBOOKの評が初めて出ました。ダイアナ・ガネットさんはコントラバスの教師としてリーダー的な存在です。メンバーのパール・アレキサンダーのミシガン大学での恩師でした。

strings & the moon

( review by Diana Gannett )

 

これは、Kadima社/tryptich、ベースの新しい音楽・インプロヴィゼーションのすばらしいシリーズの4作目になります。(他の三つはマーク・ドレッサー、ディープトーンフォアピース、ジョエル・レアンドルです。)このシリーズの他のものと同様に、この小さなパッケージの中にたくさんのものが入っています。オーディオCD、DVDに加えてこの音楽、時期、ミュージシャンについてのすばらしい情報と写真が載った本(英語と日本語)がついています。そしてそれらは魅力的な小林裕児、ローレン・ニュートンの絵、乾千恵の書で彩られています。

 

このアルバムの歴史的な特徴の一つは、撮られた時期です。このプロジェクトは2011年4月から5月初旬に演奏ツアーと録画が行われるように企画されていました。しかし、2011年3月11日、大震災、津波、原子炉メルトダウンによる放射能汚染が起こり日本を混沌状態にしてしまいました。演奏家の三人は他の国から来ていましたが、このツアー、撮影をやり遂げるために、危険の中、日本に留まったり、帰ってきました。ツアー・撮影は引き続く余震の中、災害の悲哀に染められて行きました。”Strings & the moon”は、生き残った人たちに捧げられています。

 

DVDは” Bass Ensemble Gen311″です。Genとは日本語で弦の意味です。311は地震の起こった日付。齋藤徹が主宰しすべての音楽を作曲しました。他のメンバーは、田辺和弘、田嶋真佐雄、瀬尾高志、そしてラブリーのコントラストとしてパール・アレクサンダーです。齋藤の音楽はほとんど宗教的といえる捧げ物からインプロビゼーション、音響の実験、そして古代の音楽作りの方法まで広がっています。シャーマニックな伝統、詠唱、ガムラン、能のようです。スティック、ベル、ゴング、ピック、声、口笛、等々を使い、打楽器やエレクトロニクス音楽を想起させるような音色のパレットを広げ、コントラバスから音を引き出し、創り上げています。演出やミュージシャン相互の反応がこのDVDにさらなる層を与えていて、このDVDを特に楽しめるようにしています。もっともそれは本質的なことではありません。この音楽は聴くだけで十分に完成されています。

 

作品は「ストーンアウト」「かひやぐら」「タンゴエクリプス全三楽章」「トルコマーチ~インヴィテーション」「浸水の森テーマ~夜」「オンバクヒタム桜鯛」と名付けられています。

 

「Moonstruck 月に打たれて」はオーディオCDで齋藤徹(コントラバス)ローレン・ニュートン(ボイス)沢井一恵(十七絃)による52分のフリーインプロヴィゼーションが収録されています。7つのインプロは「氷の月」「狼の月」「~以上の」「魚の月」「薔薇の月」「月に打たれて」「青い月」と名付けられています。わたしはこの作品をシェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」とジャチント・シェルシの「カプリコーンの歌」の間に入れたいと思います。これは、ピエロを狂わせた同じ狂気をとらえていますし、シェルシが平山美智子さんのために書いた複雑な声楽曲に挑戦しているようなインプロを含んでいます。このヴァーチュオスティックな表現はすべてのミュージシャンのためになると思います。

 

ベースを愛し、フリーインプロヴィゼーションを愛し、ハイクラスでエレガントな作品を愛する人に強く推薦できます。ベースがリーダーシップを取り、この複雑な現代文明に対して発言するのを観るのはとてもエキサイティングです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です