先日お伝えしたBassically Speakingのチラシできました。原田和加子さんのデザインです。↑
裏面の文章は↓
札幌でやたらと熱くコントラバスの事を語るヤツに会った。その熱さがでまかせではない事がわかるのに時間はかからなかった。すぐに彼が主導するコントラバス8台(+ピアノ)というグループ「漢たちの低弦」(おとこたちのていげん、と読む)と一緒に演奏して欲しいという依頼がきた。情熱はわかったが、どういう状態のグループかは見当が付かない。当時、私は東京でコントラバスのアンサンブルを失敗させたばかりだったので、なかなか勢いがつかない。
しかし、コントラバスのために何かをやりたいという気持ちは常にそして強く持っているので、「願いよとどけ」とばかりに自作品の譜面を大量に送った。後で聞くとそのリハーサルは「なんでこんなことをやらせるのだ?バカ!」「テツというヤツはなにをかんがえているかわからん、殺す」などなど壮絶だったという。たしかに、弓を持ったことのない血気盛んなジャズベーシスト達に「チューニングを替えて弾く」だの「指板のないポジションのハーモニックスを弾く」だの、リズムがどんどん変わる譜面を弾かせるというのは普通に考えたら無理な話。
遠距離の弱点が逆に功を奏し、私の知らないところで必死に食らいついていたのだ。そしてそれが実を結んだ。実際、東京の腕っこきのコントラバスカルテットでそのままではどうしてもできなかった曲を、暗譜して弾いているではないか!!これには正直、感動した。瀬尾高志自身はグイグイ引っ張っていくタイプではないのだが、人なつっこい性格と権力を忌避する男気が、全体をまとめている。ベースデュオでは、障害者施設、情緒障害教育研究学会、小山利枝子個展、床屋、ギャラリー、教員最後の授業で演奏したり、私のライフワークである「オンバク・ヒタム」公演にも参加してくれた。
パール・アレキサンダーとの接点は、アメリカ・リッチモンドでのISB(国際ベーシスト協会)のコンヴェンション。私のソロコンサートを聴き衝撃を得たと言う。なにしろ観客の99.9%がコントラバシストという特殊な環境のコンサート。当時、ISBの議長だったバール・フィリップスさんが日本のコントラバス奏者の特集を組んでくれた。(この9月に不慮の事故で急逝した大阪センチュリーフィルの奥田一夫さん、スウェーデンから森泰人さんも演奏した。)その後、ずいぶん経ってから連絡があり、日本に来ているからレッスンをして欲しいという。OKする。なんと新潟から新幹線に乗ってベースを担いで日帰りでやってきた。そういうレッスン生は初めてだ。彼女が日本語を修め、新潟に英語教師として赴任していることも初めて知った。
ダイアナ・ガーネットさんという世界的に著名なコントラバスの教育者について楽器を修める。典型的なエリートコースのはず。しかし彼女は日本のサブカルチャーに興味を持つという茨の道を選んでしまう。舞踏や即興演奏などだ。演奏の機会を求めて東京に出てきてからは多くの演奏家のオファーを受けている。私が協力したジャン・サスポータスさんの「気の道」ワークショップに参加。ジャンの信頼を得た彼女は、2010年セッションハウスでのジャン・サスポータスワークショップの発表会で演奏者としてシアターピースに参加した。
コントラバスへの感謝を込めて、コントラバスのこんなに素晴らしい音・音楽を伝えようという気持ちがすべてを支えている。忘れ去られたガット弦の音、フレンチ弓、ジャーマン弓の音の違い、鯨のように全てのパーツを活かせる多様性、リズムを支えると共にメロディーを歌うよろこび、歌や踊りへの憧れ、世界各国のすばらしい音楽、日本のさまざまな音楽(伝統,古典、流行などに囚われず)を通じて、自分達の「今・ここ・私たち」でなければできない歌、そして、さらには「今でも・ここでも・わたしたちでも」ない普遍な歌が歌える音楽を目指していきたいと思っている。
(齋藤徹)
Bassically Speaking
齋藤徹(コントラバス)
舞踊・演劇・美術・映像・書・邦楽・雅楽・能楽・西洋クラシック音楽・タンゴ・ジャズ・即興・韓国伝統文化・アジアのシャーマニズムなど積極的に交流。海外のフェスティバル・コントラバス祭に多く出演。個人レーベルTravessiaを立ち上げる。
瀬尾高志(コントラバス)
札幌生まれ。コントラバスを藤澤光雄氏に師事。キューバ、アメリカ各地を旅しながらセッション・ライブを重ねる。横浜ジャズプロムナードコンペティションに『石田幹雄トリオ』で出演し、グランプリと横浜市民賞を受賞。十数本によるコントラバス集団『漢達の低弦』を主宰。
http://plaza.rakuten.co.jp/anabiosisofjazz
Pearl Alexander (パール・アレクサンダー コントラバス)
1982年生まれ。5歳より音楽即興を始め、9歳よりコントラバスを学ぶ。ミシガン大学でダイアナ?ガネット氏に師事。学生時代は大学の交響楽団に所属。2006年8月の来日以来、新潟県において即興活動を開始。2009年より上京。
11月16日(火)横濱エアジン
http://www.airegin.jp/
横浜市中区住吉町5ー60(馬車道通り)電話:045ー641ー9191 open19:00~ live19:30~
一般\2500+Drink U23割引\1500+Drink
高校\1000/中学以下無料。会員割引もあります。
12月11日(土)横濱エアジン
12月12日(日)西荻アケタの店
http://www.aketa.org/index.html 19:30 より 2500円(1drink付き)
杉並区西荻北3-21-13吉野ビルB101
「アケタの店」 tel:03-3395-9507
知人の個展・グループ展を2つご紹介:
小林裕児と動物Ⅱ展
なんば高島屋、高崎高島屋と大好評で巡回した展覧会が東京に戻ってきました。なんばではこの経済状況にもかかわらず、私とのライブペインティングを実施。お世話になりました。大阪のアソビゴコロと大きさをまたまた感じました。この会場でもう二回目。一回目のライブペインティングは即、買い取られたそうです。大阪おそるべし。(東京の百貨店ではやったこと有りません。)
今回の新宿展では、9月7日にギャラリー椿でライブを行った「浸水の森」も展示するそうです。また、未公開作品も数点展示とのこと。
2010年11月10日(水)~16日(火)■新宿高島屋10階美術画廊 〒151-8580東京都渋谷区千駄ヶ谷5-24-2TEL(03)5361~1111(代表) 連日午後8時まで開催。ただし11月13日(土)は午後8時30まで、最終日は午後8時閉場。
パンフレットに書いた文章が↓
ちょっとまわりを見渡しただけでも、都会では、刻々と自然が消滅しています。心の疲れを癒してくれるのは自然だけかも、と歳を重ねていくにつれて実感しているので、困ったものだなと感じています。一方、私たちの身体、これこそ自然そのものじゃないか、とふと気づいたことがありました。爪の先から髪の毛1本、何から何まで天然素材。人工のものなんてありゃしない。
私たちの血液は海水と同じ塩分濃度だそうです。海を見るとなぜか寡黙になります。私たちの遠い祖先は、海から上陸したという証拠かもしれません。ひとりひとりの身体の中に、途方もない生物史さえ宿しているわけです。
裕児さんの絵にでてくる動物・植物は、皆、深い叡智を持ち、思慮深く、慈悲深く、哀れなニンゲンを見つめているようです。
生殖期を忘れ、年中さかりがついたままのニンゲンは、化学・核物質で地球・生物を汚し尽くし、資源を掘り尽くし、動物・植物を食い尽くし、果ては遺伝子を操作し、新しい病を発生させている。まわりの自然に対し、取り返しのつかない罪を重ねてきたニンゲンは、順当に輪廻することは許されず、顔が2つあったり、腕から顔が生えてきたり、逆さに吊されてしか生きられません。「身体という自然」から下された罰です。
裕児さんが動物にあうと、何はさておき、ともかく、触り、さすり、撫で、抱きしめます。 動物たちはそれを、気高く許可します。 同じ印を持つ仲間と認識するからです。こうして、自分の中にある自然を呼び覚しているのでしょう。そこには、魚だった頃の自分も、鳥だった頃の自分も、微生物だった頃の自分もいます。手のひら・ほっぺた・胸を通じ、共感の気が交流するのです。これ以上雄大で確実なリアリティはこの世にありますまい。動物たちにしても同じなのでしょう。
掌にその暖かさが残っているうちに、スケッチブックを取り出して、すごい勢いで描き始めます。ミラーニューロンが尋常でなく活性化し、自分と動物の境界線がどんどん消えていきます。裕児さんは、鳴き声でほとんどの鳥の名を言い当てます。膨大な数の植物の名を知っています。ニンゲン界の知識も膨大で、熊楠を、聖書を、ボリス・ヴィアンを、海老蔵を、ギリシャ神話を、ひょっとこ乱舞を、トマス・ピンチョンを同時に語ります。
裕児さんの芸大時代の先生(野口三千三さん)は、「踊りは何かを探す仕草、音楽は何かを呼ぶ行為」と言いました。裕児さんの絵にでてくるニンゲンも異形のままに、時に強く、時にか弱く、何かを探し、何かを呼んでいます。遠い目をして、己の存在を嘆き、私は誰なのか、なぜここにいるのかを詰問しています。裕児さんは時々、アクター、ダンサー、ミュージシャンを絵の磁場に引き寄せ、共振・増幅させます。そして、その場で、ニンゲンの業を「しようのないヤツだな、まったく!」と一気に肯定してくれます。
かく言う私もその懺悔ミュージシャンの1人。この30年間、自分の感覚に従い、楽器調整を替えていきました。とりわけ特徴的なのは弦です。羊のガット弦を特注しています。極太なので、弾きにくい、音は小さい、値段が高い、という三重苦なのですが、雑音・倍音成分をより多く含む音色がどうしても必要なのです。「羊の腸」を「馬の尻尾」に「松のヤニ」をつけて音を出す「民族楽器」としてコントラバスを捉えるに至りました。ソフィスティケーションとは逆方向のようです。
ノイズは、動物とニンゲンとを繋ぐ通行手形になります。かつて、自分はどこから来たのかを知りたくなり、ノイズに導かれて行った先は韓国やマレーのシャーマン達でした。音楽は自己表現の道具ではない、音楽は「素材」の集合体でなく、すべてに意味があるということを教わりました。そしてなにより彼らは皆「健康」でした。自然が支えてくれているのだから、身を削って「作品」をでっち上げ、自分の名札をつける必要はない。彼らは、儀式で、虎や猿になって踊り叫びます。捧げ物は野菜や動物なのですが、野菜や動物が自ら「捧げ物にしてくれろ」と身を投げ出しているようでした。
そういう経験は、裕児さんとの会話、セッションと通じ合うものです。裕児さんは「自己表現」の罠にはまらずに健康に創作を続けています。とりわけ最近の勢いはちょっとすごいものがあります。この世での自分の命が終わったときには、捧げ物となってみんなに食われることを約束しているのでしょうか。朝目覚め、好きな絵を描き、疲れると自然に抱かれて眠る。エネルギーを補填して、また朝起き、絵を描いて、疲れて眠る。自然に暖かく全存在が保護されている。
裕児さんは、動物・植物からのメッセージを届ける使者であると共に、ニンゲンの理不尽な願いを翻訳してくれる仲介者でもあるのです。
さあ、全身を耳にして、裕児さんの絵を聴きましょう。
もう一つは小山利枝子さん参加のグループ展「時を想う」アクエリアス2010
ギャラリー渓
11月15日~20日 11:00~18:30(初日14:00から、最終日16:00まで)
東京都新宿区歌舞伎町1-6-3石塚ビル9F 初日15日17:30より中村隆夫氏によるギャラリートークあり。靖国通り沿い(ドンキホーテならび)サブナード11番出口正面。
03-3209-5676
多摩美術大学教授 中村隆夫企画・石塚隆太郎主宰
「画家の小山利枝子、有坂ゆかり、彫刻家の吉田直、版画家の松永かのをメンバーとする『アクエリアス』は、今年から短いテキストを共通のテーマとし、自由な発想で制作することにした。タイトルは『時を想う』、テキストは『誕生は悠久の時から引き剥がされた瞬間。詩はそれへの回帰。生の時は宇宙に抱かれて』である。さらに今年から平面作家が順番に吉田とコラボレーションをすることになり、今年は松永が相手である。4人の作家が織りなすアクエリアスならではの宇宙がそこに広がる。」(中村隆夫)