クリストフに誘われて教会でのコンサートで演奏。クリストフが12年間土曜日のお昼12:00から30分間という約束で即興のコンサートを続けている。場所はORT近くの教会。建物自体は古い威厳のあるもの。四つの宗派のキリスト教が共同しているという。キリストの像もなく現代アートのような十字架があるだけ。ステンドグラスが見事。
今日は、カナダからユージン・マルティネックさんもゲストで参加、久田舜一郎さんも興が乗れば参加するというスタンスで会場に来ている。ORTで楽器を出し、会場まで歩く。背負うカタチのソフトケースなので、カフカではないが、巨大なゴキブリになったようだ。行き交う人もジョークを飛ばしている(のだろう・・・)。
試しに音出しを始めると、二人共、馴染みの?即興演奏だ。巨大な教会空間で、ベースの音は雄大に響いていく。うまくいきそうという感触。久田さんもやることを決めたらしく、小鼓を用意している。12時直前に人々が集まってくる。浸透していることが見て取れる。快調に演奏が始まる。ちょうど半分15分が経った頃、おもむろに久田さんが参加。それがとても良い効果を生んで、終わってしまうのが惜しいような30分が過ぎた。近くのカフェで歓談。「音楽ではあんなにコミュニケーションができるのに、なんでこんなに話せないのでしょう」とユージンの言葉に一堂同意。
久田さんとドイツ料理を食べ、ジャン宅へ帰り、しばし休憩。夜はORTで最終のデュオ公演がある。ジャンは昨日から高熱を出して寝てしまっている。我々の受け入れ、ピナの公演と過労がたたったのは明らかだ。申し訳ない。久田さん持参の抗生物質を飲み体力回復に努めているため、自力で会場へ行き準備を進める。(ORTの鍵は私が預かっている)。
ドイツとフランスは本当に違う。フランスで8時開始というと、早くて8時半開始、しかしドイツでは8時には、お客様はほぼ到着して席に座っている。満員のORT。久田さんはヨーロッパ最後の演奏、しかもデュオは初めて。いままでの共演歴からだいたいの構成を決めていく。長年共演しているとこういうのが楽。
まずはグンダさんが挨拶。私たちの紹介、私のレジデンスでの予定などをはなしている(ようだ。)まずは「砧」。世阿弥自身が一番気に入っていたというこの曲。久田さんとも2回やっている。観世寿夫さんのCDを何回も聴いているので流れは分かる。そういえばこのCD録音はジャン・ルイ・バロー関連でフランスで録音されたのではなかっただろうか。
蘇武の話から、「ほろほろはらはらはらと いづれ砧の音やらん 」のくだりはこんな私にもグッと来ます。私は何の遠慮もなく、どんどん弾きます。終わるや力強い拍手。いやうれしいものです。
2曲目は久田さんソロで「翁」。能の成立以前からあるシャーマニックな演目。短いリズムの繰り返しを自在に伸び縮みさせた素晴らしい出来でした。お客様にも通じていることは明らかです。
3曲目に私のソロで、ハーモニックスをさまざまに響かせながら、調弦も替えてやってみました。反応もすばらしくなかなか拍手も終わりません。
久田さんを舞台にお呼びして4曲目は、何も決めないセッション30分。合わせるようで合わせないというスタンスから開始。あっという間。久田さんの「千秋楽」で終わりました。暖かく力強い拍手が続き、3回カーテンコール。「高砂」をアンコールに。また1つ通過儀礼を突破したか。
素晴らしい客層に感激しました。ジャンが言うにはORTの観客は本当に「educated」されている、ということ。グンダさんも「今日のコンサートは本当に素晴らしかった。こういう仕事なので、私は毎日のように即興演奏を聴いています。その中で本当にスペシャルだった」と言ってくれた。能だから古い、とか、伝統だから関係ない、などと一切言わないのだ!私のツアー目的が本当に真っ直ぐ伝わった気がして嬉しい。
ピーター・ブロッツマン、ピーター・コバルト、ハンス・ライヘルなどが何十年もフリージャズからインプロへの流れを実践。まわりを人々を巻き込み、拠点にしてきた歴史だということ。もちろんピナカンパニーの台頭と気持ちを分かち合っていた部分もあるだろう。ブパタル恐るべし。
グンダさん、リタさん(ORTの建物を管理している)とカフェ・コンゴで食事。ハンス・ライヘルが飲んでいた。高揚した久田さんのお茶目が炸裂。長年見ていると、久田さんは納得いく演奏をしたときに、アッという間に酔っぱらい、子供に戻るようだ。30分の道が歩けなくなり、タクシーを呼んでもらってジャン宅へ帰る。ジャンも抗生物質が効いたようで起きて迎えてくれた。久田さんの絶好調は終わることなく、明朝の帰国を忘れたかのよう。