ブパタル・インプロビゼーション・オーケストラ

朝早くデュッセルドルフ空港まで久田さんのお見送り。抗生物質が効いているせいか、ジャンさんが運転してくれる。何事もなく無事離陸。雨の中帰る。高速をデュッセルドルフからブパタルに走らせると、ブパタルが渓谷であることがよく分かる。

今日私は、WIO(ブパタル・インプロビゼーション・オーケストラ)と共演。午後4時からのリハーサルに急がねばならない。場所もORTだと思ったら、隣町のハーゲンになっている。ちょっと戸惑うけど従うしかない。

ORTのあるビルに面した道は年一回のフリーマーケットで大変な騒ぎ。副島教授まで店を出していた。私はこの雑踏の中、ベースを運ばねばならないので挨拶もままならない。近くに待機してくれているジャンの車にやっとたどり着く。ハーゲンへ急ぐ。元工場跡を美術家何人かで借り受け共同のアトリエにしている。大きな大きな校舎という感じ。受け入れの人も大変親切で、食事・飲み物など何かと世話を焼いてくれる。

ひとりひとりミュージシャンが集まってくる。これもドイツ流か、4時には全員スタンバイOKの状態。見事。クリストフとグンダ、二人のバイオリンが中心になってまとめているようだ。バイオリンが他に三名。チェロ一人(彼は、ブパタル交響楽団のメンバーで10月に日本に来る。ブパタル交響楽団の指揮者が日本人とのこと。シンフォニーには即興をやっている人いるの?との質問に、イヤ居ないな、4,5人かな。そんなに居れば立派なものです。)、テナー・バスクラ一人、バスサックス一人(女性)、キーボード一人、エレキベース、エレキギター、フルート二人、トランペット一人、ボイス二人。ジャンさんはアルトサックスやボイスで普段は参加しているが今日は気管支の用心で不参加。そこに私とユージンがゲストで入るという編成。

所謂コンダクション。ブッチ・モリスやジョン・ゾーンが90年代に始めた方法で、ジェスチャーや簡単な取り決めで指揮者がインプロバイザー達を仕切る。この取り決めはヨーロッパで3つあるインプロオーケストラで共通していて、いつでも演奏できるようになっているという。

簡単とは言え、瞬時に判断しなければならないので、前の日にジェスチャーを書いた紙をもらったが、なかなかストレスはかさみます。例えば、だんだん変わる、クロスフェードとか、メロディらしきものとか、音量変化、今の奏法を覚えて後で使う、とか、誰かの真似をするとか、誰がソロを取るかとか、を指揮者の合図でやるわけです。

クリストフとグンダはさすがに手慣れていて、指揮も分かりやすく、音も面白くなる。しかし全員に指揮のチャンスを与える方針なので、わかりにくい人もいる。それらをリハーサルで確かめ、今日は誰にしようかを決める。

私は、ジョン・ゾーンのゲームピース「コブラ」の東京初演を二回やったことがあるが、自分が要素になること、演奏したい時に出来ない、演奏したくなくても演奏せねばならない、と言うところがイヤだった。(そう、それは作曲作品を演奏する時と同じだ。)思えば、東京の若い世代の即興シーンはジョン・ゾーンのこういう試みから始まったと言えるかもしれない。彼はずいぶん日本に住んでいた。そのあたりから私が日本の即興サークルからも遠くなってしまったのか?

即興に限界を感じてこういう「ゲームの規則」に興じる。何のための音楽か?暇つぶしか?「面白い」ということはそんなに大事なのか?生も死もない効果音だけのもの?そういうことを考え抜いた人たちが集まれば本当に面白いのかもしれない、命がけの綱渡りになれば、相当面白いだろう。

実際、彼らとやってみて、まずは人や楽器が多いということの魅力に気づかされる。東京で私は、とかく経済を考えて、多くの人を集めての演奏活動ができない。少人数の音楽ばかりになりがちだ。大勢の人が集まるだけで「社会」が成り立ち、その良いところ・悪いところがすぐに出てくる。ソロと伴奏という地と柄の関係になってしまうと余り可能性はないが、そうでない時に予想外の展開が訪れる。とにもかくにも、人が多く集まることは良いことだろう。そして多くの「問い」が生まれることはが大事なことだ。それをひとつひとつ検証する根性が必要だが。リスクのある方が楽しいのかもしれない。

音楽は要素(メロディ・リズム・ハーモニー・音色)の集合体である、とも言えるし、決してそうではない(すべてに意味がある)とも言える。また、音楽は自己表現ともいえるし、決して自己表現ではないとも言える。匿名に近づくことが即興演奏の目的の1つになってきている。自己表現=善という近代の考え方を超えようと美術でも音楽でも思想でもさまざまな試みが行われてきた。そういういろいろな問いがこのオーケストラの試みに詰まっている。

かつて箏のアンサンブルで演劇の音楽をやったとき(CD「BLUE POLES of LEAR」)、即興演奏に興味を持ち始めたメンバーに「自分が目立つ演奏を試みるより、全体の駒の1つに成りきったほうが良い。」「『普通』でない音をとっかえひっかえ出すことを即興と勘違いしてはいけない。」「自分の持っている技法をすべて書き出してごらん、あまりないでしょう。即興に夢を持ちすぎてはいけない。大事なのはその場に『居る』こと、そして、新しい発見」と、自分に言い聞かすように言ったことを思い出した。

2時間のリハーサルの結果、今日の出し物が決まる。何と、初っぱなが「コントラバスコンチェルト」と来た。私は全くの自由で、クリストフが指揮で私と張り合う展開。私は自由といっても、指揮を見ながら、それに関わってソロを展開していく。集中力を込めてやったので、それなりの熱が生まれ、面白い演奏になった。演奏後みんなの顔が高揚していた。良い経験だった。その後、二人の指揮で演奏。休憩、2部のはじめがユージンと私のデュオ。私はベースを横に置いての演奏に終始した。この演奏法もだんだんと色が増えてきた。良いことか、悪いことかまだ判断できないが・・・・その後二人の指揮で演奏、アンコールにもう一人の指揮で演奏。

これもドイツ流か、演奏が終わると、みんなそそくさと帰る。フランスだとなんだかんだと2時間はかかるのに慣れていたので、ちょっと戸惑う。フランスとドイツは本当に違う。抗生物質中のジャンに運転してもらいベースをORTに置き、家に帰り、就寝。昨日今日の出来事を乗り切った充実感は大きい。第三の通過儀礼突破か。

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