通訳の副島さんと打ち合わせ
参加者はとても積極的に声を出したり、鼓のタイミング、かけ声などを真似している。事前の心配は杞憂に終わり和気あいあいと場が盛り上がる。ここでも「時雨を急ぐ紅葉狩り」の一節が採用された。後ろで2匹の犬とナエル王子も自然に居る。
休憩中に、クリストフ・イルマーさん(vl)が話しかけてくれた。5月の始めにキッドアイラックアートホールで共演したジェーン・リグラーさんが、ブパタルに行くなら是非彼に会わなければ、と言っていた人。とても分かりやすい英語で打ち解ける。ほんとうに自然な人だ。こういう人たちがヨーロッパの即興界をしなやかに繋げているのだろう。ジェーンさんとクリフトフはバルセロナでセッションを続けてきたという。こうやってまた1つ橋が架かった。
ワークショップ後半私の担当。「アジアのシャーマニズム」について話してくれと言うことになっている。もちろん私は学術的な話は出来ないので、韓国とマレーのシャーマンの知人・友人達との交友・演奏で学んだこと、感じたことなどをしゃべる。通訳はコロンビアに引き続きジャンがやってくれることになった。コロンビアの時は英語→スペイン語、今日は英語→ドイツ語。言葉に堪能な人は羨ましい。
体験に即して話すように心がける。アジアのシャーマニズムというと、空中浮遊したり、不思議大好き的に捉えられることを極力排除した。サイードの言うオリエンタリズムをちょっと意識。
金石出さん達との出会い、衝撃、祭りに参加したこと、セッション、リズムのこと(チャンダンと何を表すかを実践してみせた)、人を音楽を信じている、あるいは、信じたいというその姿勢、音楽は要素の合体でないこと、などなど。そして、金石出さん達の演奏の映像、ザイ・クーニンと福岡アジア美術館オープニングでやった映像を観てもらう。みなさん、映像にかなり興味がありそうだったので、音を落として、映像を流しながら話を続けた。
彼らの社会的な差別、技量、お祭り、などについてから始める。少し進めて「自己表現の限界」「匿名」にもおよぶ。「権威や権力をこわして自由になる、のではなく、これからは創り上げていく方向・肯定する方向を重視しなければならない」と言う発言には一斉に「なぜ?」という質問が来た。伝統と現代、フリージャズの時代、ピナさんなどの話をし、久田舜一郎さんとの共演に流れを持って行った。
即興の反対語は作曲ではなく、常識・自分自身だ、発見がなければ即興ではない、という最近の私の流行り?から、久田さんとの共演を聴いてもらいたかった。私と久田さんの演奏では、けっして伝統を対象物として、コントラストを強めたり、地と柄の関係を楽しむのではなく、その場で音を出す同格の人間としてやっている。伝統の一撃で無惨に砕け散ることも何回もあったがそれは嬉しい敗北だった。
今回の久田舜一郎さんとのツアーでは、伝統と現代のことを主眼に置いていた。伝統とは異端と異端が点と点で結ばれたもの。伝統にしがみつくものは伝統でさえあり得ない。ツアーを通じて、ヨーロッパ人ミッシェル・ドネダの参加も得て、多層的に確かめたかったことでもあり、伝えたかったことでもある。伝えたいというのは、「自分」に伝えたいのだ。
ドイツでの初仕事が終わって、二人共ホッと一息。