朝、ゆっくり目覚める。雨で有名なブパタルにあらざる好天。街を散歩。ゆったりと時間が流れるのは本当に久しぶり。やっぱり連続9日間9回演奏+長距離移動というのは私にとってもっともハード(で楽しく、試される)な日々だったことを実感。
ピナ・バウシュ舞踊団の「Viktor」公演の最終日に千恵さん一家と共に招待していただく。ピナさんがよく使っていた劇場が閉鎖され、オペラハウスでの公演。素晴らしい設備を持った劇場が閉鎖、スーパーマーケットになるという噂もあり、皆の怒りを買っている。世の中の流れは本当にオソロシイ。オペラハウスは千秋楽とあってなにか独特の雰囲気。私たちの世話をしてくれたジャンの親友ウオルフガング氏が若きヴィニシウス・ジ・モラエスに似ている(ということは高場将美さんに似ている)ので、千恵さんとニッタリ。音楽劇で素晴らしい俳優だそうだ。
3時間半、参加ダンサー30数名、エキストラの老人・大道具役(あるいは本物)10数名、犬3匹、羊2匹。24年前のレパートリーなので、皆で一致協力してやっと成し遂げたという感じ。ジャンさんは、日本から帰国後すぐにこのリハーサルに加わったという。1日最低8時間のリハだったそうだ。
爆笑が起こったり、途中でも感極まった拍手が起こったり、休憩のアナウンスはお馴染みの女装のジャンさんだったり、女性ダンサーが全員で客にパンを配ったり、達者な役者がピアノ、アコーディオンを弾いたり、巨大な土壁をずっと崩している人がいたり、休憩中シャンパンを飲んだり、多分どこでもしているのだろうが、地元でのピナは違うだろうなと思います。いつ終わるともしれない観客総立ちのカーテンコール。大田省吾さんのピナ観では、ピナさんの「肯定」的姿勢を高く評価していたが、本当にそれを感じた舞台だった。
ピナさんがともかく一番やりたいことを、いささかの妥協もせずに、シンプルにやり続けたこと、それこそがさまざまな繋がりを生み、有機的に勢いを付け、土壌も豊かになっていく。そんなことを思った。さまざまな困難を困難とせずに乗り越えていく悦びに替える。このメンバー達の強い繋がり、地元との繋がりは本当に強力だ。ピナカンパニーは何があっても当分は結束して続くだろう。
一人の強い思いが人に繋がり、大きな力になっていく。そしてその様子が舞台全体から直に伝わってくる。そしてそのもとが小柄な女性だったことも良いように作用してきたのだろう。世界中でピナを信奉する女性達がいるのもうなずける。(私は、良いところばかりを見ている、という面はあるでしょうが・・・・)
打ち上げは、お馴染みカフェアダ。今日はメンバーの誕生日もあり華やかなパーティだった。気がつくととなりにビム・ベンダースがいたりして。ビムさんは最近ピナに捧げる映画を撮った。ジャンの部分だけがまだ未撮影とのこと。カフェ・ミュラーも3Dで撮ったそう。ナエル王子とビムさんが踊ったり、日本語を話す人が何人かいたり、カンパニーの中にも今一人日本人女性が居る。今のカンパニーには本当にいろいろな人がいる。人間という種を考えたときに、これほど多用な亜種が居ること、そして、生きると言うことに関して、踊ると言うことに関して、シェアできることがこんなにたくさんある、ということか。
(写真)カフェアダでの打ち上げ・右から三人目後ろ姿がベンダース監督
翌日ランチを千恵一家、ジャン一家、徹一家、久田舜一郎さんでドイツ料理と、もちろんビール。量が多い。ジャンも昨日とは打って変わったリラックスした顔。あれだけの公演と、私たちを迎える準備などなど、さぞや大変だったでしょう。王子からいただいたという風邪、公演中の土埃で気管支がやられているようで、ゴホゴホと、ちょっと痛々しい。その後、千恵さんファミリーとブパタル美術館へ。ピカソ、クレー、ベーコン、ダリなどの未知のものを楽しむ。車椅子では普通は2階に行けないのだけれど、親切な学芸員の方が搬入エレベーターなどを使って案内してくれた。そのため、来月からの展示も少し除くことが出来た。「こういう良いことも時にはあるのよ」と文子さん。この後、千恵さん一家はウイーンに行き、美術館、ウイーンフィルを楽しんでくると言う。フットワークの軽い(なんて気軽に言えないけど)素晴らしい一家。今度会うのはどこ?