満員札止めのOleで高場”ラモーン”将美さんの誕生日セッションでした。主役同世代の音楽人間、教え子さんなどさまざまな客層が、それぞれ楽しんで和気あいあい。ラモーンさんの人柄ですね。毎度お楽しみのパンフレットにはフランチーニと一緒に居る33歳の高場さんの写真もありで、あっちこっちで微笑みが。(http://mariemine.web.fc2.com/image4/feliz_pro.pdf)
第一部
ラス・マニャータス(メキシコ:伝承曲)。誕生日パーティには不可欠というおめでたい曲から開始。主役も合いの手を叫ぶし、いやめでたい、めでたい。
ため息の橋(ペルー:チャブーカ・グランダ曲)ワルツ。ラテン・アメリカの名作曲家としては稀な女性、しかも歌手のチャブーカさんの名曲。本当に名曲ですね。詩も良い。チャブーカさんはもっともっと日本でも聴かれた方が良いです。この日の選曲は半分以上3拍子系。高場さんの趣味がチラッと見えます。チャブーカさんのCDではワルツしか歌っていません。音楽はワルツしないという人たちの心と身体を想像してみたい。そういえば、マルチニーク島も3拍子しかないとか。(Kaliという面白いバンドがあった。)2足歩行を始めたニンゲンたちが、イチ・ニ・イチ・ニと歩いているうちに、イチ・ニ・サン・イチ・ニ・サンと数えて歩くと、左右にスイングしてくる、そしてだんだんとダンスになっていく。
アブスルド(不条理 アルゼンチン:オメーロ・エスポーシト作詞、ビルヒーリオ・エスポーシト作曲 タンゴ)これも3拍子。ロベルト・ゴジェネチェの崩した歌がこの日のための練習資料にありました。まさにこの感じ。4度進行がどんどん進む現代的響き。
エスクアロ(アルゼンチン;ピアソラ)前後半で一曲ずつソロをやって欲しいということ。高場さんにリクエストは?というとこの曲を指定。コントラバスではなかなかの難曲。転調してなんとか弾けるように編曲。この曲は「カンドンベ」なんだよ、とオリビエ・マヌーリに聞いて、ハッとしました。そうだそうだ。今回はカンドンベ色(アフリカ色)をうんと強調して弾きました。カンドンベといえばウルグアイ。ウルグアイという国は本当に興味深いです。ブラジルとアルゼンチンという音楽超大国にはさまれて、両方の要素を持ち、アフリカの要素をキープしている。ラ・クンパルシータの作者はウルグアイ人だそう。もしかしたらウルグアイに貴重な音楽の芽があるかもしれない。
以下2曲は私が抜けてインティメイトなデュオでファド。
にがいアーモンド(ポルトガル:アリ・ドス・サントシュ作詞、アライン・オウルマン作曲)アマリア・ロドリゲスの持ち歌。アーモンドは毒、死の匂い。歌詞というよりは現代詩。
割れた鏡(ダヴィッド・モウラオン=フェレイラ作詞、アライン・オウルマン作曲)
この詩もスゴイ。
ここで休憩
冷たい空気を吸いに外に。高場さんが旧友たち(ラテン音楽戦友)と歓談している。実に豪快。毎日毎日一升飲んでいた!もう70歳なので五合になっちゃった、電車で寝ちゃっていろいろなところへ行きました、とか。万里恵さんがMCで紹介していたように高場さんも10年前は「こんなにお酒ばっかり飲んでいる人は知らない」というほどの酒豪でした。今はほとんど嗜む程度。きっと一生分、いや二生分くらい飲んじゃったのでしょう。今回の曲の作者・演奏家・関係者たちもだいたいが「飲んべえでスケベで貧乏」。この辺がラテン音楽のヒミツかも。
二部のはじめをまたコントラバスソロ。ブラジルのショーロから「鱈の骨」めんどうな曲ですが、楽しい。やはりブラジルの音楽は解放感があります。(タンゴばかり弾いていると、何かちょっと追いつめられた気分になります。)こういう余り知られていない曲も、音楽戦友達は常識のようにご存じで、私の全く知らない録音をいくつも教えてくれました。恐るべし。
私のキスしたくちびる(ブラジル:カスタータ、レオネーウ・アジヴェード作)とろけるようなセレナータ。もう80年以上前の曲だが、このセンチメントは今でも充分通じます。ニンゲンの感情はちょっとやそっとじゃ変わらないのでしょう。特に男女関係は。カエターノ・ヴェローゾはこの曲もカヴァーしています。本当にこの人は確信犯ですね。ラテン・アメリカの良い曲ばかりを選曲した「粋な男」「粋な男ライブ」「粋な男ライブDVD」(アップリンクの日本盤DVDは高場さん監修ですが、曲目が少ないので要注意とのことです。)で本当にすばらしい曲達を選んでいます。峰・高場デュオのレパートリーと何曲も重なっています。私はカエターノでは「リーブロ」と「粋な男ライブ」を一番多く聴きました。
黄色いシャツ(ブラジル:アリ・バホーゾ作)酔っぱらいの男を扱った可愛らしい曲。同じ誕生日のナラ・レオンの歌が資料に入っていました。酔っぱらいのダメ男を好きになってしまうというテーマは、世界各国の歌にありますね。韓国の歌謡ヒット曲にも全く同名のものがありました。もてようとしたら黄色いシャツを着るのがいいかも?ということで演奏後、私は黄色いシャツに着替えました。アホらし。
黄金の小舟(メキシコ:伝承曲)これまた古い19世紀の曲。雄大でシンプル。かえって演奏はムズカシイ。
さくらんぼの実る頃(フランス:ジャン・バプティスト・クレマン作詞・アントワーヌ・ルナール作曲、工藤勉;日本語訳詞)
万里恵さんはかつてシャンソン歌手だったそうです。パリ・コミューン「国歌」。私にとってはなにより湯河原「空中散歩館」の大成瓢吉さんの愛唱歌だったことです。酔って良い気持ちになるといつも歌ってくれました。昨今フランスの市場で目にするサクランボはもっぱら黒っぽいアメリカンチェリー。時代ですね。
バモーノス・さあ行きましょう(メキシコ:ホセ・アルフレード・ヒメーネス作)やはり同じ誕生日のヒメーネスさんの大きな歌。ランチェラです。こういうシンプルな歌を演奏しにくい(少し遠く感じる)のは、きっと歌と踊りとが日常化していないダメ都市トーキョーの感覚なのかと思いました。なにかというと集まって歌ったりしていたら、こういう気持ちと瞬間同期できるのかもしれません。
祝祭感にあふれて終了、と同時にやっぱりお約束の「ハッピーバースデイ」を弾くとみんなで唱和。ケーキのロウソクを吹き消し、はずかしさ満面の高場さん。ウソかマコトか、生まれて初めての誕生会だったとか。来年の古稀セッションが楽しみです。