徹の部屋vol.4

ポレポレ坐「徹の部屋」vol.4 終了しました。

不思議でした。自分がどこへ行ってしまったのか、分からないという感覚で、終了後マイクを持たされたとき、何も言えない状態。久しぶりというか、そんなことはなかったかもしれません。毎回が例外、毎回が「空前絶後」、という実感。

直後でもあるし、分析はできませんが、こんな感じで進みました。

第1部

祝祭的な感じが欲しく、マレットにカシシを付けたもので、「海のリズム」を中心にグルーブを意識したリズムで始めました。このリズムは、世界各地にあるもので、日本では特に奄美(里国隆さん)にあり、私の中のテーマの一つになっています。

裕児さんは、水色の背景の線、中央に大きな木。それを両手(二刀流)で強烈に描いています。

私はこのリズムからはどこへでも行けます。ついに週間前までこの同じ壁に秋野イサムさんの南米の絵があったので、ユパンキの「ウアラ(熟れたトウモロコシの踊り)」、ブラジルの「黒い乳母」、ペルー・チャブカ・グランダの「ニッケの花」などを行ったり来たり。

木に、梯子が架かります。そこに男が登ります。

この夏一緒に行った山形の果樹園らしい、と想像。リンゴがすこしずつ増える。左の女性はミニチュアの馬を抱えている、右の女性は頭にリンゴを載せて・・・

このあたりから記憶がなくなります。直前に観たアンジェイ・ワイダ監督「死の教室」タデウシュ・カントールとクリコット2に執拗に流れていた「ワルツ・フランソワ」を弾いたような・・・記憶が戻ったあたりで、第1部終了。

第2部、始めから不思議体験。

裕児さんは初めて見る紙を使っている。聞くとネパールの紙だそう。かなり貴重なものらしい。貼ってあるだけで、存在感が半端でない。リディアン旋法の簡単な繰り返しをハーモニックスで弾く。なんとなく舞台を端から端まで移動しながら繰り返す。ネパールの何か?が場を乗っ取ったか?「お祓い」をしているような印象。

紙の裏に仕込んだミニマイクが裕児さんの筆致を増幅。その音が急に強くなった気がする。その音とのセッションになった。擦る音に擦る音を合わせたり、離したり、空気を切る音など微妙な音の掛け合いになる。もう「音楽」ではなく「音」に立ち返っている。

5枚のチン(韓国の銅鑼)を座布団の上に置いて、上から叩く。この奏法は珍島で見たもの。ピリ奏者が片手でピリをコントロールし、片手でチンを叩いていた。私の所持している5枚のチンで音の違いを際だたせながら5拍子から始める。(何かが始まる、とか、動物を表す韓国のリズム)ボートを描いていた裕児さんが動物を描き始める。

よく手や指が動いているな、と思うほどの細かいリズムを叩いている自分を発見。ちょっと自分の力を超えていた様で、終演後しばらくたって気がつくと人差し指の先がプックリと腫れ上がっている。

その後、裕児さんの造った一木作りのボートにガット弦をはったものを弾いた。これで音を出してください、と裕児さんがこの日に持ってきたのだ。叩く音は想像できたが、なんとか弦で音を出したいと思い、予備の弦を張った。旭川モケラモケラでの「女達の一弦」ワークショップを思い出しながら弦を張る。ちょっとトンコリのようでもある。しかしこのボートは朱色と水色、中にはヌードの身体が二つ。一つは両性具有のようだし、ともかく色っぽいのだ。紙に擦れる筆を増幅した音も、何かエロスを感じるものがあった。

そのボート楽器を弾いた。もうこの空間は、「音楽」を必要としておらず、「音」だけで良い、「良い音」も必要でない、できれば原型に近い、音と無音との境界にに近いものが一番適している環境になっている。「オブジェの《等級》が低ければ低いほど、オブジェの客観的性質を明らかにするための可能性は増大する。最下等のオブジェを、軽蔑とあざけりの領域から引き上げることは、芸術における純粋詩の行為である・・・・」というカントールの言葉にいつも引き戻される。

裕児さんの絵のボートには黒いロバの花嫁が乗っている。後で聞くとシェークスピアの「真夏の夜の夢」からのインスパイアだそうだ。やっぱりこの時は「不思議の世界」がこの場を支配していたのかもしれない。

「徹の部屋」に毎回来てくださるピアノ教師のR先生が「今日は“ささやき”がよかった。」と言ってくれた。「闇」という漢字は「門構え」に「音」。そもそも音は無音とすれすれのもので良い。それを見守り、耳をそばだてて「待つ」ところに、道が開いている。

終演後も不思議感覚が続いていたが、ポレポレが誕生ケーキを用意してくれていて、日常に戻ることが出来た。戻れてよかった。バールさん75歳、一雄さん103歳、私54歳、まだまだひよっこ。

この2枚の絵は、数日間、ポレポレ坐のカフェに飾ってありますので、ご覧になることが出来ますよ。

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