15日に演奏するポルトガル・ブラジル・アルゼンチンなどの音楽をシミュレーションしたり、さらったりしていると、身体の中、頭の中がそれだけになってしまう。あるいは、身体に入りきれずに身の回りにまとわりついて離れないヤツもいる。何とか、なだめすかしてなるべく親しくする。すると知らぬうちに身についていたりする。最後まで入ってくれないのもあるかも知れない。頼むぜ。
作曲家が指揮者になると作曲できなくなる、と聞くことがある。バーンスタイン、ブーレーズ、かつてのマーラーもそうらしい。それがちょっとわかる気のする今日この頃。指揮者の仕事と言えば、誰かが作った曲を細部にわたって研究し、作曲の意図を探り、さらに自分のアイディアを加えようとする作業だ。作曲家は、他の作曲家の意図を探ることも「人ごとでない」ので、人一倍できるだろうし、まったくその人物になりきってしまうことさえあるかも知れない。それには時間も膨大にかかる。作曲をする自分と全く違う自分にならなければならないし、その両者はそう簡単に行ったり来たりできるものではないだろう。
多くの団員との共同作業は、うまくいけばこれほど楽しいものはないだろう。それに何と言っても金銭的にギャランティーされる。できるかどうか分からない、できても良いかどうか分からない作曲を、身を削るようにすることに比べると、魅力は多い。
まあ、それは所詮、「人ごと」ですので、15日の話にしましょう。門天ホールで黒田京子さんがプロデュースし続けているこのシリーズ。演奏家個人が身銭を切ってプロデュースをし続けるというのは、今どき、稀なことで、大事なことで、貴重なことです。演奏家は依頼を待っている方が楽に決まっています。それでも充分に活躍できる黒田さんがこの企画を続けているのは、大切な、替えのきかない仕事と思っているのでしょう。元々は労組に関係のあるようにみえるのこのホールには小さいスタインウェイのピアノがあります。多くの人の寄付で備わったと聞いたことがあります。天井ホールというだけあって窓からの下町の風景はトーキョーを感じます。
いろいろな人たちの願いのこもったシリーズ、是非、ご参加くださいますようご案内申し上げます。
演奏予定曲は:
Estrada Branca (ブラジル)ジョビンとヴィニシウスの名曲バラードです。エリゼッチ・カルドーゾの名唱が忘れられませんね。
Lisboa Cidade (ポルトガル)とてもファドらしいファド。
El Ultimo Cafe(アルゼンチン)カスティージョ詞・スタンポーニ曲のタンゴです。メジャーセブンで始まるタンゴは本当に稀です。これを選んだ美緒さんはきわめてユニーク。
Os Argonautas(ブラジル)カエターノ・ヴェローゾが作ったファドです。1969年(40年前!)、通称カエターノのホワイト・アルバムに収録。「大胆な航海者」という邦題。
Mae Preta (ブラジル)アマリア・ロドリゲスの名唱で有名な「暗いはしけ」は実はブラジルの曲でした。「黒い乳母」という題です。こちらのバージョンを演奏します。
真珠のモレーノ:美緒さんのオリジナル。リズムが7拍子、元になっているのはマケドニアのリズムだそうです。7拍子ってとてもダンサブルなのです。
黒ツグミ:Cristovao Bastosと美緒さんの共作。黒ツグミの目をつぶしてしまう・・・という強烈な詞です。
小さな空:武満徹作詞・作曲の歌
Todo O Sentimento:Cristovao Bastos とシコ・ブアルキの共作、とろけるような美しいメロディです。
田舎の列車(ブラジル)ヴィラ・ロボス作曲、クラシックとポピュラーの境目のない偉大な作曲家です。
その他・演奏のみとして以下を予定しています。
Quebradihna(ブラジル)エルネスト・ナザレーのショーロ。私は2回録音している大好きな曲です。
Travessia(ブラジル)ミルトン・ナシメントの代表曲。私の個人レーベルの名前もここから拝借しています。
お時間がございましたら是非、足をお運びください。
10月15日
時間 : 開場 19:00 開演 19:30
前売 3000円 当日3500円 (当日昼ころまで私にメールをくだされば前売りでOKです!)
場所 : 門仲天井ホール 東京都江東区門前仲町1-20-3 8F tel. 03ー3641ー8275
交通 : 東京メトロ東西線・門前仲町駅(出口3)徒歩3分 都営大江戸線・門前仲町(出口6)徒歩2分