第二部
連続した一曲になる予定。
「for ZAIから」→オンバク・ヒタム桜鯛→オンバク・ヒタム琉球弧→舟唄→ストーンアウト
「for ZAI」は1998年水谷隆子さんのリサイタル「フラジャイル」の委嘱。福岡アジア美術館のオープニングイヴェント、スタジオESでのコンサートでも改訂版が演奏された。そのうちの冒頭の部分。直前にバリ島に行っていて、呼吸だけの音楽を作りたかった。呼吸でやっていると、あっという間に過呼吸に陥ってしまい、結局楽器演奏で行った。11年前のものなので、当然?私は譜面を紛失していて、初演のメンバー栗林秀明さんに送ってもらった。
ここでは、ギザギザな棒を使って演奏する。この元は、娘が赤ん坊の時の赤ん坊用玩具だからもう20年以上は経っている。ドイツ製のプラスティックで、ビスとナットの形状をしている。
ビス部で弦をこするとギロのような音になる。強くこすると強烈な破裂音。弦を痛めてはいけないので、あまり強い素材ではダメ。このオモチャのプラスティックは絶好の強度だった。箏の栗林さんは同じ効果を得ようと、17絃の弦をドラムスティックに巻き付けた。これには、たいへんな努力と経費がかかるそうだ。バール・フィリップスさんは太く長い竹にギザギザを刻んだ。バリー・ガイさんはシャワーブラシの背を刻んでいた。今回は、この部分で東南アジアの「蛙の合唱」をしようと思っている。(そして、5/27にニューヨークで追悼会のある水谷隆子さんに思いを馳せようとも思う。)
「オンバク・ヒタム桜鯛」はもともと西陽子リサイタルのために「オンバク・ヒタム桜台」として高田和子さんへの追悼で作られた。追悼をこめたのがもっぱら第三楽章の3つの唄だった。今回はこの楽章を外し、アジア的旋律やリズムの饗宴に焦点を当てたいということで、sakuradaiは桜鯛と変身し、祝祭になる。
第二楽章で使われる白い柳の枝は、たまたま蛙つながりになったが、砂澤ビッキさんの「樹華」の材料としての剥いた柳だ。(ビッキとはアイヌの言葉で蛙)これは旭川のモケラ峰子さんが作ってくれたものだ。この枝でイタリア羊のガット弦を叩く、ある部分では、弓の代わりで弦をこする。何とも情けない音がとても良い。
プリペアードしている箏柱(ことじ)状のもの(井野さん、ビーチクと命名)は、もともとは前出の赤ん坊用のオモチャのビス部だった。この玩具をコントラバスの弦に挟んだ瞬間のことは、E♭チューニング発見の瞬間と同様に、いまでも鮮明に覚えている。人にはそれぞれ何回か、発見の瞬間が訪れる。その前髪をつかめば人生を彩ってくれる。
だらしない性格上、すぐに紛失してしまい、デパートや問屋のオモチャを探し回ったが、どうやら評判がよろしくないのか、作られていない。ずいぶん長い間、ギザギザなものを見るとなんでも試しに買っていた。結局、ナット部は、アスベスト館のワークショップに来ていた木工職人さんにケヤキで作っていただいた。ビス状の棒は、試行錯誤の結果、1つは洗濯機の排水ホースに木で補強、1つは100均で買ったオモチャ。
東急ハンズに通うようになって、ビーチクは大量生産が可能となり、ハワイ・札幌・松本などでのワークショップでは、何十個と手仕事で作り、事前に郵送している。
いずれにせよ、このビーチクと糸巻きに風鈴をぶら下げることが私のプリペアードの始まりだった。偶然性を取り込むことと言う意味、「西洋楽器」をやっているという根本的矛盾への対策という意味合いもあり、さらには若気の至りもありで、一時期はプリペアードの道具で2ケースを持ち歩いていた。プリペアードは徐々に減っていき、最少になったが、今回は新たなベース・ミュージックを作るという意味もあるため、いろいろと復活している。
こちらはいたって「マジメ」にやっていても「飛び道具」視される。しかし、大事なことに気がつく。「効果」というものは、「本質」を補助・補完するものではなく、「本質」を削ぐものだということ。この意識があるか、ないかで演奏は根本的に違ってくる。
奏法の引き出しの1つとしてこれ見よがしにやるのか、本来やりたくはないのだが、どうしてもそうなってしまう、どうしてもその音が必要になる、のかの違いだ。沢井一恵さんが17絃の弦を棒で叩く。それは、本来最も「叩きたくない」のに「叩かざるを得ない」から叩く。「叩いちゃうのよ、凄いでしょ」とは対極にある。だから、音の説得力が違う。叩くときも楽器に対する最大の愛情をもって叩く。コントラバスの弦を叩く奏法に魅力を感じて、教えてくれと若者が来る箏が何回かあった。(美術系が多かった)。コントラバスの基礎から長い時間をかけてやっていかないと教えない、と言うと帰って行く。
プリペアード奏法は、あくまで奇をてらうのではなく、弦や楽器という自然素材に含まれている様々な音やノイズを引き出すために使う。さらに「良い音」って何?では、そもそも「音」って何?という問いでもある。楽器を上手に弾くこととは?楽器を弾くこととは?人間と楽器の関係とは?楽器が無いと私は何?などなどいろいろな問いもあるわけだ。
今回、ストーンアウトでは、チン(銅鑼)の合奏も取り入れている。「ねたみ・ひがみ・そねみ」三姉妹を追い出すための長短(チャンダン/リズムのこと)などを演奏する予定。堅い棒を左手に持ち、ブルース・ギターのボトルネック奏法のような奏法もやる。ブログで書いた「西洋音楽では計りきれない大きなビブラート」を出すためだ。
舟唄に乗って海上の道を進み、吉田一穂さんの待つ北海道にまで辿り着くのが大きな目標だ。
ちょっとしたアンコールも一応用意します。(オイオイ、サクラの要求かよ?)