ブラジルはいつものように
いつものように、ブラジル音楽をよく聴いている。ホッとしたり、エッ!とビックリしたり、なるほどと感心したり、オレもやらねばと激励されたり、これで良いのだ!と思ったり・・・・・・
いつものまぶしきオーバー65のオヤジ達(カエターノ、シコ、ミルトン、ジル、エドゥ)も健在。カエターノ・ベローゾの新譜「ジー・イ・ジー」は単純なロックバンド編成を突き詰めていて痛快。エレキギター・エレキベース・ドラムス、ときに電気ピアノという編成は、20世紀ポピュラー音楽が生み出した一大制度。ビートルズ、ローリングストーンズ、などであっという間に固定、日本でもベンチャーズ、グループサウンズブームで確定。制度化した。ロック少年少女・オヤジ達はこの編成を疑うことなど毛頭無い。
常にコンセプトをつきつけるカエターノが意味もなくこの編成にこだわるわけがない。同じ曲群を、ジャキス・モレレンバウムにたのんで、フルオーケストラやビッグバンドのアレンジをさせて思いっきりゴージャスにうっとりさせることも、凄腕サンバ隊を組織して祝祭サンバパレードをすることも、すぐにもできるだろう。なのに敢えて子供や孫世代のメンバーとロックフォーマットを使っている。
このCD録音にあたって、その進行をブログで発信、ライブも重ねた。グアンタナモ基地に関する詩については、フィデル・カストロ自身から抗議が来たそうで、そのほかもいろいろと電脳世界を使って世間を挑発した。元文化大臣ジルベルト・ジルは、ライブ撮影・録音を敢えて許可して、逆に投稿を促したりしている。フランク・ザッパの確信犯的行動を思い起こさせる。彼が生きていたらこの電脳時代、どういう手をうっているのだろうか。
今回は、サンバとロックをカエターノ色の接着剤でくっつける。ちょっと聴くとチープなサウンドだが、不意に、シンプルな美しさに打たれたりする。特にドラム。(私自身はドラムセットというのが、どうしても苦手。なんであーなの?といつも思っています、ハイ。)サンバの2ビートに6連音符をずらせてぶつける曲、同じくサンバの2ビートに5拍子をかぶせてずっと叩かせたり。所謂8ビートを叩かせる曲は少ない。
外見はどう見てもロックバンドだが、ハッとするアイディアを、敢えてこれらの楽器にやらせている確信犯なのだ。この世代のロッカー達に、自分たちブラジル人のリズムであるサンバを、ロックの楽器でやらせているわけだ。サンバに対する誇りと自信。
私のフェイヴァリット、シコ・ブアルキさんは「LEITE DERRAMADO」という小説を出版。前作「ブタペスト」が日本語に翻訳されているので、今回も是非お願いしたい。お願いします。また、シコのオペラ「オペラ・ド・マランドロ」が日本で2回目の上演ということ。http://www.duncan.co.jp/web/stage/malandoro/top.html アトリエ・ダンカンというから、若松武が居るときに彼を出してもらったらいいのにと思った。天井桟敷解散後、いろいろと活動した中で、私が音楽担当していた劇団「TAO」で長年リア王をやった共演者だ。パナマ帽・白いスーツ、ピカピカの靴を着けて、ピッタリのマランドロができるはずだが、今はもう退団しているらしい。
それにしても、意外なところでシコが日本で受け入れられている。本業?の音楽で日本盤がほとんど出ないのに。シコは通常、小説を書き終えると一気に音楽作りに入り、アルバムを製作し、その曲を演奏するツアーに出る。次のCDが待ち遠しいぜ。
初めて聴いたピアノのアンドレ・メーマリ(Andre Mehmari)には新鮮な驚きがあった。女性歌手ナー・オゼッティ(Na Ozetti)さんとのデュオ2枚、うっとりするような見事なピアニズム、どうやって呼吸を合わせているかわからないほどの一体感のある演奏だ。ジェラルド・ガンディーニ、高橋悠治、千野秀一、以来、久しぶりにピアノの響きに耳を奪われた。ピアノも結構良い楽器じゃん。時々ギスモンティを彷彿とする瞬間があるが、ピアノはもっともっと上手。
彼の他のCDも聴いてみた。2枚のソロ名義アルバムでは、 驚いたことにピアノの他に弦楽器、打楽器、歌、写真まで一人でやっている。ピアノ・ヴィオラ・ギター・フルート・シンセ・ヴァイオリン・チェロ・コントラバス(大事なときのコントラバスだけはゲストを呼ぶという「カワイイ」ヤツだ。)・クラリネット・オルガン・サンプラー・カヴァキーニョ・バンドリン・クラリネット・アコーディオン・サンバ打楽器各種・エレキベース・・・もういいよ。
「ミンガス・プレゼンツ・ミンガス」でミンガスがエリック・ドルフィーを紹介するとき、嘘八百で「フルート、アルトサックス、バスクラリネット、バスーン、オーボエ」と言っているのを思い出したが、アンドレは本当に演奏する。
破格のバンドリン奏者 ハミルトン・ジ・オランダとのデュオもブラジル音楽への愛に満ちている。歌とのデュオの時も思ったが、どうして違う楽器のユニゾンがこんなにピッタリと合うのだ?ユニゾンとは、デュオとは、伴奏とはかくあるべきという提示のようにも聞こえる。サンパウロ最良のジャズグループ「パウ・ブラジル」へ参加したCD「Nonada」のジャケットは東京の地下鉄・赤坂見附駅のようだ。関係ないか。
作曲家としても、オパス・ブラジルアンサンブルという木管アンサンブル、Sujeito a Guinchoという凄腕・痛快クラリネットアンサンブルにも所謂、現代音楽曲を提供している。日本にはジョイスの伴奏バンドで来ているらしい。
いやはや音楽の神が、ブラジル上空にずーっと居座っているようだ。移動する気配さえ無い。こっちの水はあーまいよ・・・・・・ウソ。