オンバク・ヒタムこぼれ話(7)

このところ久しぶりに宮本常一さんの本を引っ張り出している。文体と人柄が一致しているその生き方はいつも頭が下がる。韓国でアジュモニ(おばさん)たちのコーラスや踊りを観ていると、不思議と宮本さんの書いた「忘れられた日本人」を思い出す。ニホンもこうだったのだろう。

↑ のCDは私のかなりのお気に入りで、録音も立ち会った。珍島出身のシャーマンのドン、パク・ピョンチョンさんが仕切って、チャングを叩き、チョウ・ゴンレイさんがリーダーでコーラスを指揮する。ソウル郊外のクッパン(クッをやる場所)での録音だった。パクさんにはいくつも長短を教わっていたし、録音も何回かやらせてもらった。珍島のサルプリ集↓は私にとって思い出深い録音だ。この時に何かつかんだ気がしている。

珍島でのこと。この島は海割れの起こる聖なる島として天童よしみの歌で有名になった。確かに何かがありそうな島だ。珍島犬というマツゲの長い特種が島中を闊歩している。キム・デレさんは、シャーマンの家系ではなかったが、何かを感じてしまい、どうしようもなく、やむにやまれずシャーマンになった人だ。彼女の録音の時、なかなか調子が出ない時間が大分経つ。と、急に声が全く変わった。頭蓋骨が震えているような声だ。「神が降りました。」と言う。本当にそんな感じだった。

話を戻そう。

クッパンに行くため録音技師らスタッフと小さなバスをチャーターしたのだが、交通渋滞で全く進まない。同行していた金大換さんが「大丈夫だから、そこの通行禁止レーンを行きなさい、いいからいいから」と運転手に告げると、ひょいとレーンを変え、スイスイ進む。

心配したとおりに白バイのお巡りさんに停められた。金さんが、なにかカードのような物を見せて警官と話をしている。そのままOK。なになに?と聞くと、(かなり偉い)芸術家パスのような物を見せたのだと言う。芸術家に対する社会の深い尊敬なのだろう。金大中さんが高銀さんを南北会談に連れて行って詩を詠ませたことと通じている。

クッパンに着くと準備OK状態。珍島のおばちゃん達はすでに興奮状態、箸が転んでもおかしくて仕方ないという感じ。実際、蠅がマイクに留まるとみんなでキャッキャッ言って録音NGとなる。郊外の野外ゆえか、電圧が安定せずに時々録音できなくなる。そのため録音が中止されてもキャッキャッ。周りにも伝染して面白くて仕方ない。

録音されたのは「カンガンスーレ」(女達だけで輪になって踊る、月見の夜のネズミの群舞の時の歌。このダンスも本当に愉快だ。)「トゥンドッキ・タリョン」「オゴク・タリョン」「珍島アリラン」の四曲。カンガンスーレは20分近く、他の三曲も10分強の大曲だ。もちろん譜面などありはしない。

豊かな自然と人々。そして歌と踊り。プラス平和であれば、もう何も要らない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です