「人はみな『例外』だ」と考えるとずいぶん救われることがある。自分のことを、顔も名前もない購買者・消費者として統計上の数字扱いされている気分になることが多い昨今なおさらだ。「フツー」「大多数」なんて幻想にすぎない。
最も「例外」的詩人に吉田一穂さんがいる。
木古内町釜谷村に生まれ、積丹半島古平で育った。古平とはアイヌのコトバで赤い岩だそうだ。少し前、古平に行ったことがある。モケラ峰子さんに運転してもらって、断崖絶壁の海岸線をくねくねとしばらく回る。崖が崩れ死亡交通事故が起きたため、今は、多くの部分がトンネルになっている。トンネルを抜ける度に、驚かすように、目の前に奇岩が林立する。この奇岩の海が、ニシンなど海の幸の揺りかごだったのだろう。
「生の根柢は自然にあるからで、いつもそこから新しい命をつかみ取るのである。」「青は海の色である。上層で薄氷のきららをはる鰯雲、砂丘の魚見櫓、染まるようなウルトラマリンの海峡の潮。あしたゆふべの波の音。動揺と反復、海はあらあらしくまた静かに、元始から一貫した運動の法則と不安に支へる生命の原型を示して鹹く、無限と永遠を思考の対象に強ひる最初の、そして最終の主題である。・・・・」
自らを海の民の末裔とし、「黒潮こそ、その大圏に生を享けたる海の族の永生回帰である!」と黒潮回帰を高らかに歌った。
この寒い北の海でこんなことを考えた詩人。彼はまた、地軸が30度傾いていたと推測して「古代緑地」を書いた。げに、人の想像力は果てしない。
岩波文庫 吉田一穂詩集 加藤郁乎編
定本 吉田一穂全集 小澤書店 三巻+別巻
詩人吉田一穂の世界 井尻正二編 築地書館
北原白秋詩集の編者もやっている。
昨年つくばでカン・テーファン、高橋悠治、田中泯というヘビーな人たちと演奏した時の打ち上げ。どういう流れだったか、吉田一穂さんの話になった。私の経験上、吉田さんの話がでてくることはめったにない。そして、泯さんが最も影響を受けた人の一人だと言うことが判明。
私の夢想がひろがり、ベースアンサンブル+箏アンサンブル+田中泯という公演の構想がでてきた。
それを今年中にやろうと思っている。そのタイトルこそ「オンバク・ヒタム」!