二人の「てつ」と「たかし」

瀬尾高志さんが初冠雪の札幌からやってきた。9月の始めに北海道をデュオでまわった時のレパートリーを確認したり、新曲を試したりするためもあって前日に上京、しっかりリハをして、久しぶりのアケタの店へ。思えば2〜3年演奏していなかったのではないか。街並みがずいぶん違う。地下に入った途端に懐かしさがぐっと来た。高柳昌行さんとある期間、毎週土曜の午後の部をずっとやっていたし、さまざまな実験をやらせてもらった。娘はお腹にいる時から来ているわけだ。演奏中ぐっすり寝ていても演奏が終わると、起きて拍手をする、評判の見上げた娘は2回目の年女。

今夜は、北海道でのレパートリー「来るべきもの」「準備は良いか?」「鮫」ピアソラ3曲、「鱈の骨」ショーロ。他はすべてオリジナル曲で演奏。井野信義さんとのデュオとの差別化のためもあってSoNAISHのレパートリーは外した。

先日CD化された「朱い場所」の中から「金羊毛とミモザ」「マラケッシュ」「舟唄」「蓮の事情」、西陽子さん委嘱の「OMBAK HITAM sakuradai」、明日初演予定の「西覚寺」抜粋などなどベース2本でやるのは東京では初めて。

二人ともG・D弦はイタリアのTORO社の羊ガット、A・E弦はコルダ・トロ・ガムなど極太弦。松脂はアンドレアのアレックス、アルシェのチェロソロ、リーベンチェラー4番、と音色に特に注意を払った。

瀬尾さんの使っている楽器は私がかつて使っていた楽器。「invitation」「three day moon」「交感」「pagan hymn」「ausencias」「往来トリオの三種」などなど多くの録音で使った楽器だ。当時、この楽器で一生弾くものと思っていたが、ガンベルに出会ってしまって手放すことになった。その時の引き取り手のYMさんも会場に来ている。YMさんから瀬尾さんは譲ってもらったのだ。

第2部が始まって瀬尾さんの音が激変。鶴屋弓弦堂の鶴田「たかし」さんが瀬尾「たかし」さんにふさわしいと思われる弓を持ってきてくれたのだ。100年以上は経つ古い型の弓。このごろ鶴屋弓弦堂が取引しているヨーロッパジプシー経由で入って来た弓を鶴田さんが修復した。結局、瀬尾さんはこの弓を購入した。

バール・フィリップスさんも言っていたが、ヨーロッパの楽器事情はジプシーが握っているそうだ。弓弦堂も直接取引ではなく、間に入ってくれる適切な人が見つかった為に取引が出来る。事情も知らずに交渉できる相手ではない。

演奏後、YMさん、鶴田さんらとベース談義をしていると、もう一人大きな男が入ってきた。体つきからベーシストかな、と思ったら、彼が噂の鈴木哲さんだった。イタリア・クレモナに住み、本場で楽器作りをしている。昨年、製作したコントラバスがヨーロッパで賞を取った。たまたま里帰りをしていた彼を鶴田さんが連れてきてくれたわけだ。弓弦堂の弓作りのKさんも来ている。(Kさんはカナダで弓作りを習った人。)

西洋楽器に関わる者が、本場に住むことは大事なことだろう。コントラバスに限って私の体験から言っても楽器屋・修理屋さんの技術の差がありすぎる。西欧文化に関わる一般にも言えることかもしれない。当たり前のこと、生活の一部であること、と教養、勉強すること、の差は埋めようがない。少なくとも一回は経験しておいた方が良いのかも知れない。

鈴木「てつ」さんは私の楽器の細かな割れを発見してくれた。年末に再帰国した時にそれも含めて弓弦堂で、オーバーホールしてもらう約束をした。二人の「てつ」と二人の「たかし」YMさんも含めて我々にとっては世界で一番必要で最高のベース談義に華が咲いた。

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