生まれたての・・・

ベートーベンの皇帝を弾くレオン・フライシャーの映像をたまたま観る。途中だったのでその人とは分からずにいた。(北九州の谷本仰さんに聞いてCDを聴いていた。)ジストニアで37歳で右手の自由を失い40年間。ボツリヌス菌による治療が奏功し、再び両手でピアノを弾いている。80歳直前には全く見えない。アルペジオ気味に弾く音が非常に美しかった。

聾唖者関係の演劇を手伝ったことがある。舞台におかれたピアノを、ポロポロとさまざまな耳の具合の人が弾く。聾唖の人の音の新鮮さには本当に驚いた。それはその場にいた人ほとんどが共有した感覚だった。

韓国の銅鑼(チン)の音が好きでシャーマンに譲ってもらった。さまざまな大きさのものを特注で作ってもらったりもした。(映画「赤目48瀧心中未遂」でしばしば使われている音はその音です。)少し時間が経つと譲っていただいた時のあの音がしなくなる。ところが、劇団「変態」のワークショップをお手伝いしたとき(大野一雄さんも元藤あき子さんもいた。)団員のひとりが叩いた音は元の音だったし、マレーのザイ・クーニンが何気に叩いた音もすばらしかった。私が悪かったのだ。チンのいい音はこうだ、ピアノはこういう音だ、という想定の下に、その音を再現しようとする欲が音を曇らせる。

レンタルで観た映画「ニキフォル」でも同じ感覚に囚われた。(ニキフォルがカントールの絵の先生だとは知らなかった。)

生まれたての音、生まれたての感情、曇りのない音。「私」というトンネルの清掃を怠らないように。

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