カエターノ・ヴェローゾとタンゴで思いつくのは4曲。ディセポロ「古道具屋」(ホワイトアルバム)、ガルデル「マノ・ア・マノ」(シクラド/ライブ)、ピアソラ「南へ帰る」(粋な男スタジオ盤)、ピアソラ「エル・タンゴ」(ピアソラに捧ぐ、クレーメル)。
ピアソラ・ゴジェネチェ再会CD 「レジーナ劇場1982」で「古道具屋」が取り上げられ聴衆の熱狂が録音されている。この曲のディセポロの詩は特別だ。突拍子もない人々が並んで歌われるのだ。そのため歌う人が登場する名前を入れ替えることがよくあるようだ。きっと聴衆はそこを楽しみにしているのだろう。
ピアソラ・ゴジェネチェはサッチャー首相の名を入れたし(当時、フォークランド紛争中)、カエターノはジョン・レノン、ミナスなどを入れた。カエターノは後半でバンドネオンを左右チャンネルでグチャグチャに揺らしドミナントのままエンディング、曲を終止させないというアレンジでこの詩の混沌を活かした。「粋な男」カエターノとしてはガルデルは欠かせない先輩だろう。ジャキス・モレンバウムのチェロ一本で粋がって歌ったがタンゴの脂ぎった不良中年には成れなかった。反省した?カエターノは「粋な男」でピアソラの「南へ帰る」を完全なボサノバにして歌った。違和感が全くない。カエターノは成功した。
カエターノの趣味から言うとピアソラ関係ではホルヘ・ルイス・ボルヘスは外せない。ギドン・クレーメルと一緒に「エル・タンゴ」を録音している。この時は語りだった。ごちゃ混ぜのアルバムで居心地が悪そうなトラックだった。「エル・タンゴ」には以前「ピアソラのリズム」で取り上げた「タンゴ・アパショナード」の元曲が平原のミロンガのリズムで入っている。
ピアソラとカエターノ、作品でいうと、3 つの音だけで曲を作ろうとピアソラは「ミケランジェロ’70」を書いた。展開して他の音も使うことになるのだが、カエターノは本当に3つの音だけで「O pulsar」を書きあげた。ちなみにカエターノの12音音列で作った曲「ドイデカ」は、逆行の12音列も使って激しくロックしている。こういうポップス歌手はいただろうか? 7thの音が最低音に来る和音はピアソラでもお馴染みだが、カエターノはそればかりで「ホルヘ・ド・カッパドキア」を書く。ジョビンとエリス・レジーナが歌う「3月の水」のイントロの和音と言えばわかる人は多いかもしれない。時代を表す響きにも敏感でなければならないのか。
千恵の輪ツアー関係で言うと、ジャンさんはカエターノと会っている。ジャンも出ていたアルモドバル監督の「トーク・トゥ・ハー」で「ククルククパロマ」を歌ったカエターノはピナ・バウシュの大ファン。ブパタルを訪れ、ピナ達のためにソロコンサートをやった。
こことは関係ないですが、3/2にセッションハウスでご一緒する南アフリカ人のダンサー、ジャッキー・ジョブさんの生まれたばかりの赤ちゃんは「パロマ」という名前。今回のダンスで「ククルククパロマ」を弾いてと言われている。