2006.03.03 Friday

曲目解説 その5 最終回

トラック8:黒石
作曲家・マルチリード奏者アンソニー・ブラックストンさんの一連の作品のイメージで作曲。ダジャレ的命名です、すいません。二年前ブラックストンさんが教えていたオークランドのミルズカレッジで二日間だけ演奏と講義をしました。そこは広大なキャンパスで、大学院に即興のクラスがあり、優秀な若者が多数いました。こういうところでのびのびと音楽のこと、即興のことを考えられる環境はとても羨ましいですね。日本では何年たったらそういう状況になるでしょう?夢のまた夢でしょうか。現在はフレッド・フリスさんが教授、ジョエル・レアンドルさんも時々教えに行っていますし、かつてはポーリン・オリベロス、スティーブ・ライヒもいたそうです。(そして、わたしからすると信じられないような月給で!)

イントロ部分ではプリペアードベースとでも言う処置をしてアフリカの打楽器効果をねらっています。コントラバスは工夫次第でいろいろな音が出ます。弦の間に紙を挟んでスネア太鼓の音をまねよ、という指示の楽譜がバッハ以前にあったそうですし、叩き専用のコントラバスで演奏していたジプシー楽団をフランスで見たことがあります。思わず「お父さ~ん」と叫びそうになりました。弦に木製の大きなビス状の物を挟む奏法は、私の最初期からおなじみの奏法です。実は、箏の柱(じ)から発想したものです。コントラバスはいわば「鯨」ですね。全ての部分を使うことが出来ます。

トラック9:王女メディアのテーマ
フラメンコダンサー野村眞里子主宰「スタジオ・エル・スール」による委嘱。フラメンコ劇「王女メディア」のテーマとして作曲。特殊なチューニング(E♭-G-E♭-G)をして、倍音の響を強調しました。このチューニングはソロで地方を回ったときに、なんとかして1人でできないかと思ってひらめいたものです。変な話ですが、ひらめいた瞬間のことを今でも覚えています。奈良県大宇陀郡での雨の日、演奏直前でした。

生と死の題材を扱うために長調でも短調でもない「リディア旋法」を使っています。(私はなぜかこの旋法に強く惹かれています。)トルコ軍楽隊のマーチ的なフレーズを経て、やはりリディア旋法の作品「Invitation」のテーマが現れ、終わります。「Invitation」は井野さんのお父上の葬儀の際、イグナチオ教会で演奏しました。それ以来SoNAISHの重要なレパートリーになりました。

3/26天王洲で故川崎克己さんを偲ぶ会が催されます。私の処女作「TOKIO TANGO」と二枚目「COLORING HEAVEN」を録音してくれた人です。私はハワイでのワークショップ発表会の日で残念ながら参加することは出来ません。その代わりに、このトラックを使って、野村喜和男さんが詩の朗読をすることになっています。私は遠い空で世界の若者と一緒に追悼曲を演奏するつもりです。思えば「王女メディア」の舞台P.A.も彼でした。彼のP.A.はミュージシャンの音を把握すると、まずミュージシャン好みの音を作ります。さらにこいつは行けそうだと思うと、ミュージシャンに対して挑発的・挑戦的な音を作ります。

それを「よ~し!」と受けて立つと信じられないような音響空間を創り出す人でした。P.A.の必要な舞台では、ミュージシャンを活かすも殺すもP.A.エンジニア次第であって「協同表現者」とでも言える存在なのです。ちなみに彼はP.A.(public address)という単語でなくS.R.(sound reinforcement)という単語を好んで使っていました。「王女メディア」は今年10月には再演が予定され、公演自体が彼に捧げられます。そこでもしっかり追悼したいと思います。

以上で曲目解説はおわりです。

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