トリオ

ツアーの成り立ち

ミュンスターにて

ミッシェル・ドネダ(ソプラノ・サックス)とル・カン・ニン(打楽器)が、2011年10月に来日します。もう日本ではお馴染みになって熱心なファンが多いミッシェル・ドネダ。そして、本人もファンも待望していた初来日のル・カン・ニン。

二人ともヨーロッパで最も尊敬されている演奏家です。功成り名を遂げた第一世代の後、実質上、インプロシーンを最も活気づけ、充実させている世代になります。若手演奏家の『アニキ』分として、求められ、慕われています。ミッシェルのように吹くサックス奏者、ニンのようにセッティングする打楽器奏者はとても多く見られます。最近では現代音楽界からのオファーも多く、即興演奏が、市民権を得ているヨーロッパでは、教育界での注目もグンと増えているようです。

素晴らしいことだと思います。

いかに、エレクトリックな音響による演奏が蔓延しても、アコースティックな楽器を演奏するという行為は決してすたれることはないでしょう。人が生きる基本である呼吸を使って吹き、擦り、叩く行為は、『身体』を通していくつもの遠い『記憶』を強烈に喚起するのではないでしょうか。ボタンを回せば音が大きくなるわけでもなく、スウィッチを踏めば音が変化するわけでもないですが、ボタンを回したり、スウィッチを踏むのにかかるわずかな時間より断然「早く」反応できるのです。

フランス・ナンシーでのミュージック・アクションフェスティバルのイベントで、30チェアーズ、というのがありました。ある年、新進気鋭の若手エレクトリック演奏家とミッシェルと私でのセッションが企画されました。彼はひらめきに満ちた優秀な演奏家。終わった後、彼曰く「なんだ、普通の楽器で私のやりたかった音はみんな出るじゃないか!しかも、変化のスピードはより早く、加速度もついている。」

ニンの打楽器は、ある時は弦楽器になり、管楽器になる。初めて聴く人の多くは、開いた口がふさがらない。何回も共演している私も、あまりのことに時々笑い出してしまいます。ミッシェルのサックスの音との私のベースの音が同じ音になって、どちらが出しているのかがわからず、ドギマギすることが何回もあります。しかし、打楽器奏者の音が同じ音になる経験はニン以外では経験がありません。

より『効果的』であろうすることは、無い物ねだりをくりかえすことかもしれません。「もっと、もっと、もっと、もっっと」の声は、無責任に、ヒトの身体を離れ、満足から遠のくだけ。右肩上がりは必ず破綻するのが世の習い。効果的、効率的が善しとされることが、世の中で日ごと繰り返され、暗黙の内に空しさとどうしようもない疎外感を生んでいるとも言えるのではないでしょうか。

彼らの演奏は、ある意味、行き着いているのかもしれません。しかし、生きている以上、日々の新たな発見や出会いによってほんの少しずつでも進んでいくことには変わりはないでしょう。そして、聴衆も、共演者も同じ時代を生きている者として、全く同格なのです。

齋藤徹とミッシェル・ドネダの出会いは、1995年バール・フィリップス主宰の「5th Season」でした。それ以降、シンガポールセッション、3度の日本ツアー、5度のヨーロッパツアーを続け、数多くの成果を上げています。かつてのニンの打楽器セットは、ジャングルジムのような巨大なものでしたが、現在、大太鼓を横に置くセッティングにして、一人で持ち運べるまで小さくなっています。がしかし、音色のバラエティは変わっていないのです!

2003年の「影の時」プロジェクト( Une chance pur l’ombre )では、ミッシェル、ニン、徹、今井和雄、沢井一恵というクインテット編成でカナダ・ヨーロッパツアーをしました。
2010年、徹のヨーロッパツアーは、ミッシェルとのデュオ、小鼓の久田舜一郎氏を入れてのトリオ、ブパタルでの一月のレジデンスでした。その間何回か再び共演を重ね、その際話し合った結果、この音を日本のリスナーに伝えたい!日本ツアーをしよう、ということになり、スケジュール調整を経て、企画立ち上げに至りました。

齋藤徹


トリオのプロフィール

ミッシェル・ドネダ

ミッシェル・ドネダ(ソプラノ・サックス)
http://puffskydd.free.fr/neda/index.html

1954年フランス南西部生まれ。1980年よりインプロビゼーションを始める。演奏と同時にIREA(Institute Research and Exchange between arts of improvisation )の創立,フリブストの創立に関わる。多くのアーティストとの出会いの中で、独自のアプローチを開拓している。

ル・カン・ニン、ドーニク・ラズロ、ベニアト・アチアリ、マーチン・アルテンバーガー、バール・フィリップス、ポール・ロジャーズ、齋藤徹、沢井一恵とレギュラーに演奏を続ける。

世界中のインプロビゼーションシーンとの関わりを深め、ヨーロッパ各国の他にもアフリカ、アジア、日本、アメリカ、カナダ、南米、ロシアへツアーを行っている。


ニン・ル・カン

ル・カン・ニン(打楽器)
http://www.lequanninh.net/

1961年パリ生まれ。ヴェトナム系フランス人。5歳でピアノを始め、10代で打楽器を始める。ヴェルサイユのコンセルバトワールでシルビオ・ガルダのクラスに入学。最優秀で卒業。ドーニク・ラズロ、ミッシェル・ドネダとの出会いよりインプロビゼーションの世界に入る。

1986年からカルテット・エリオスの創立メンバーとしてジョン・ケージ、ジョージ・アルペギス作品を演奏・録音。1992年フリブスト(他のジャンルのインプロバイザーとの交流を目指す)の創立メンバーとなる。マーティン・アルテンバーガー(チェロ)と現代音楽作品演奏と即興演奏を行うアンサンブル・イアタスを始め、ヴィンゴ・グロボカールの作品を委嘱・初演。

現代音楽、ダンス、詩、映像、写真とも共演を続け、参加CDは40枚を超える。


齋藤徹
齋藤徹

齋藤徹(コントラバス)
http://travessiart.com/

1955年東京生まれ舞踊・演劇・美術・映像・詩・書・邦楽・雅楽・能楽・西洋クラシック音楽・現代音楽・タンゴ・ジャズ・ヨーロッパ即興・韓国の文化・アジアのシャーマニズムなど様々なジャンルと積極的に交流。

ヨーロッパとアジア、日本をつなぐ「ユーラシアン・エコーズ」マレーと琉球、韓国、日本海側をつなぐ「オンバク・ヒタム」企画を続ける。上智大学非常勤講師。ヨーロッパ、アジア、南北アメリカで演奏・CD制作。音楽フェスティバルの他に、コントラバスの国際フェスティバルにも数多く参加。新たなコントラバス音楽のための作曲・演奏・ワークショップを行う。自主レーベルTravessia主宰。