喜多直毅(きたなおき 7日 キッドアイラックアートホール ヴァイオリン)
コントラバスから見るとヴァイオリンは実に「不愉快」な楽器で、すべて「良いとこ取り」をして、「あなたたちはちゃんと伴奏しなさいよ」と言われているかのごときです。でも、人は親を選べないように、ヴァイオリンから選ばれてしまったのだったら、仕方ない。
ヴァイオリンは長い時間をかけて、ソロに最適化されてしまった楽器と思います。メロディを歌うから、下はちゃんと支えてよ、お願いだからね、あなたたちの代わりはいくらでもいるのよ、とヒステリックに言ってくるのです。倍音が少ないという欠点を自分で何とかしようということはさっさと諦めてひたすらメロディを歌うのです。言ってみれば可哀想な?カナリアです。コントラバスは逆に伴奏に適化されつつ、メロディを歌うことを諦めていない。ぶきっちょでも歌うことは好きなのです。しかし、チェロやヴァイオリンに劣等感を持って「ああいう風になりたいな~」と真似をして歌うコントラバスは惨めです。かないっこないのだから。
即興演奏でソロコントラバスは大変盛んなのに、ソロヴァイオリンはあまり例がないのも象徴的です。でも多くの人が諦めたところには大きな可能性はあるでしょう。
喜多直毅さんはヴァイオリンに選ばれてしまったのでしょう。本人にさほど悪気?は無いようです。キラ星のごときユダヤ系クラシックヴァイオリンの系列は目を引きますが、人々に愛され続けているヴァイオリンにはロマ(ジプシー)のもの(シャガールの絵に何点もあります。)もタンゴヴァイオリンもあるし、西欧音楽の12音など単調きわまりないというアラブ音楽もあります。日本の演歌士も弾きながら政治批判をしていたり。
思えば、そのほとんどを直毅さんは演奏しているようです。送られてきたプロフィールを見ると、最近はヴァイオリンを箱と捉え、弦楽器のルーツに遡る、あるいは人が弦を見ると音を出したがる、そんな根源的な視点から即興演奏をしているようです。
キッドアイラックアートホールの大好きな音響の中で、直毅さんがミッシェル、ニンの音にどう対応するのか、本当に楽しみです。直毅さん、大いに楽しんでくださいな。人生の授業料はとっくに支払い済みです。