アトリエ第Q藝術 LIVE
前回の同会場での同メンバーでのLIVEがあまりにも強烈(特に庄﨑隆志さんの存在)だったので、もう1回やりたい、あれはなんだったのか?確かめたい、残したいと思うようになり、スケジュール調整をして実現。
私の事情が事情ですので、歌が熟成する期間を用意できませんでした。しかし、泰子さんはその時々で最善・最高の歌を歌ってくれます。なにしろ最初の出会いが、オペリータ「うたをさがして」の初演2日前の急遽エキストラでしたから。何があっても大丈夫な守護天使です。(なんて勝手なことを言っていますが、ご本人は身を削るようなことかもしれません。ありがとうございます。)
庄﨑さんとの初めての共演は「牡丹と馬」遠野物語でした。この時は、私が急遽エキストラだったのですから、ご縁というものは曼荼羅のように、あざなえる縄のように、繋がっているのかも知れません。ご縁の細き糸を大切に繋いで行きたいものです。
午後早めに会場入りして各自準備にいそしみます。関係者一同気を遣いつつ自分の為す事のクオリティをあげるべくていねいに時間を使います。
それぞれの準備が整うと、全体のリハーサル。まずは詩人に参加していただくところをやってみます。想定通りやってもつまらないのでその場の「即興性」を最大に重んじるようにします。いずるばフェスから繋がっている部分が多いし、両方に関わっている出演者・スタッフも多いので「積み重ね」が活きてきて、改めて説明しなくても良い。
寶玉義彦さんは「青嵐の家」の前半の朗読で、MIYAさんは「遠いあなた」の途中でフリーのフルートソロ。バッチリ決まります。木村裕さんのピアノ参加「雫の音」も何の問題もなくリハーサル終了。薦田愛さんの朗読も問題なし。あ〜、何とスムーズなのだろう。市川洋子さんは朗読をしないということ。洋子さんはステンドグラスの作家でもあり、ずいぶんと前に、私のCDと彼女の作品の物々交換をしており、私は2枚の作品を持っています。それをプロジェクターにかざしたらどうか、と持っていきました。残念ながらプロジェクターの前に置いても映りませんでした。が、ここからが私たちの「存在理由」です。即興的に「なんとかする」。この時は庄﨑さんのアイディアで彼が手に持って映し出すことになりました。真っ赤に見えたステンドグラスが光にうつしだされるとステインド(腐食された)部分の葉脈が浮き上がってきました。
野村喜和夫さんは開演直前にいらっしゃるということで、読んで(詠んで)いただく部分を選択しておきます。ラップ風にしてもらおうと思っていました。楽しむことがお好きなのを存じているので、心配は微塵もありません。
録音準備を整え、サブのシステムも用意でき、安心して、やっと演奏準備です。本番になってはじめて演奏に集中出来るという(いつもの)状況です。プレーンガット弦のA線は、極太で音質はすばらしいのですが、音程が安定しないという弱点があります。他の楽器がなく、歌とコントラバスという編成で和音の複雑な曲を歌うのはそれだけでも大変なのに、ルート(根音)の音の音程が定まらないとヤバイので、A弦は銀巻きガットに張り替えます。
各自いろいろな事情があり、その状況のもとで精一杯やるわけです。私の足の浮腫・痺れは絶好調ですが、まさに竜太郎名言集「ぼくのからだはこういうこと」。三角みづ紀さんの詩「どこまでもさがしにいく、このからだで、からだだけで」です。ここでこうやって会えている、一緒に演奏できる、他の人達と共有できる。それだけで何と嬉しいことか。そんな舞台に対する情熱・飢餓感・幸福感は庄﨑さんにずいぶん教わりました。
自分の表現にこだわらず、みんなで空っぽの舞台に、水や食糧を注いでいく。大事なこと、優先順位を過たず!
MIYAさんのフルートは人と人、場所と場所、時と時の「遠さ」を吹きます。エリック・ドルフィが「FAR CRY」(叫びが届かないほど遠い)「OUT THERE」「OUTWARD BOUND」などの言葉を選んでいたことを想起させました。
木村裕さんのピアノは雫の音からも解き放たれ庄﨑さんと戯れ、寶玉さんの丁寧な朗読は日本語の発音の美しさを思い出させてくれます。ダンスもやっていらっしゃる薦田愛さんはスッと踊り出します。満員電車が舞台の詩「ひが、そしてはぐ」の時でした。泰子さんも私も満員電車の乗客となりギューギュー押しくらまんじゅうをしました。
最後の三角みづ紀さんの「Pilgrimage」(巡礼)では、いずるばフェスからの流れもあり泰子さんがアカペラで歌い舞台を歩きます。私も楽器を引きずって歩き、ライオンヘッドの口元に花をさし、舞台に放置。すると巡礼の途中で倒れた庄﨑さんの手の先に花が届く。とても演出ではできません。
私の事情で打ち上げもできませんでしたが、若く興奮するでもなく、老いて疲れるのでもなく、しかし、充分満足し希望や願いを発見・キープし、人との繋がりを味わい「ねばりづよく」行こう、との気持ちを新たにして終演・片付け・搬出・帰宅することができました。
とてもとても良い日。人生やめられません。